てんかんの基礎的メカニズム

てんかんの基礎的メカニズム

てんかんは「繰り返し起こる発作」と定義される脳疾患である。この発作は統制を失ったニューロン集団が同期的かつ律動的に発火(興奮)することによって惹起される短時間の精神的変容あるいは身体的変化である。この場合、まず最初にてんかん原性が形成され、これが進展していくことにより、繰り返しの発作をきたすと考えられている。

てんかん原性(epileptogenesis)形成のメカニズム

てんかん原性はニューロンネットワークの中で興奮と抑制のバランスを変化させる長期間かけて起こるダイナミックな生物的事象のカスケードと考えられている。てんかん原性が形成されるとてんかん焦点(epileptic focus)となって,正常な機能をもつ脳が、自発的あるいは刺激に対して容易に繰り返し発作を生ずる状態に転換していく。てんかん原性の発作には、中枢感染、頭部外傷、脳血管障害あるいは熱性けいれんなどの外的要因が関与し3)、その実体として神経細胞のアポトーシス(apoptosis)、酸化窒素(NO)の増量、フリーラヂカルの蓄積、Caイオンの過剰などが考えられている。一方、内的要因として1995年から 続々と見出された各種電位依存性イオン(あるいはNa、K、Clイオン)チャネル遺伝子あるいはGABAAやニコチン受容体連関チャネルサブユニットの遺伝子変異などがある。この場合,イオンチャネルや受容体の変容によって起こる神経細胞活動の異常興奮などが内的要因としてあげられる。てんかん原性は、これらの外的あるいは内的要因があり、長期間(しばしば数年間)かけて形成されていく。この間には遺伝子発現の変化という分子レベルから始まり、ニューロンネットワークの変化へと形態的変化が起こる。前述の外的あるいは内的要因があって、第1回目の発作が起こるまでの発作準備段階においては、多彩な遺伝子発現カスケードが起動する。例えば、外的因子による刺激によりcfosなどの最初期遺伝子が発現し、これが他の遺伝子のAP-1配列に結合して、その遺伝子のプロモーター活性を制御する。すなわち神経成長因子(NGF) mRNAを増加させ、この結果、NGFが神経発芽(sprouting)を亢進させる、あるいは脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor : BDNF) mRNAを増加させ、これがBDNF受容体(TrKB)に働きシナプス伝達を亢進させる。あるいは非受容体型チロシンキナーゼ(Fyn)を活性化し、NMDA受容体サブユニットNR2Bのチロシン酸化を起こしNMDA受容体の反応性を変化させることにより、シナプス可塑性(LTP)を亢進するなどがある。

てんかん原性の進展

第1回目の発作が起こった後はてんかん原性が(てんかん焦点として)進展していく過程であり、多彩な長期間持続するような組織学的、生化学的変化が起こる。例えば,神経細胞死(neuronal loss)、グリオーシス(gliosis)、神経再生(neurogenesis)、発芽(sprouting)などが起こる。発作を繰り返すうちに過剰な神経細胞の興奮の結果、神経伝達物質のグルタミン酸が過剰に放出され、これが後シナプス細胞のNMDA受容体やAMPA受容体に働き神経細胞死を起こし、ニューロンネットワークの再構築(remodeling) と再組織化(reorganization)が進行し、てんかんの進展(悪化)を招く。複雑部分発作の場合、苔状繊維の発芽により亢進したグルタミン酸放出という興奮系の亢進、あるいはバスケット細胞(GABA含有細胞) 障害によるGABA性抑制の減弱などがあり、持続的な神経細胞の過興奮が維持される。NGF、BDNFなどの神経栄養因子はシナプスの再構築を促進し、てんかん原性形成に関与すると共に、てんかん原性の進展にも大きく関っていると考えられている。

出典 : 日本てんかん学会「日本てんかん学会用語集」
http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/terndoc.pdf