内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達調節のメカニズム

1.はじめに

マリファナの精神神経作用は、その活性成分が脳内のカンナビノイド受容体に結合して引き起こされるが、カンナビノイド受容体の内因性のリガンド(内因性カンナビノイド)が、シナプスにおいて逆行性シグナル伝達を担うことが201年に明らかにされ、その働きについての理解が急速に進展した。

内因性カンナビノイドは、シナプス後部のニューロンで産生され、シナプス前終末に局在する1型カンナビノイド受容体を逆行性に活性化し、神経伝達物質の放出を短期あるいは長期に抑制する。この分野の最近の進展として内因性カンナビノイド産生酵素のノックアウトマウスが作製・解析され,長年の疑問であった逆行性シグナル伝達を担う内因性カンナビノイドの分子実体が解明されたことがあげられる。

さらに近年、形態学的研究からカンナビノイドシグナル関連分子のシナプスでの詳細な局在が明らかにされてきた。本稿ではそれらの最近の知見も含め、内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達調節について概説する。

大麻草(Cannabis sativa)の加工品、マリファナは古くから医療やリラクゼーションに用いられてきた。マリファナの摂取は、幻覚、高揚感、不安の軽減、鎮痛、運動障害など様々な精神神経作用を引き起こす。これらの作用はマリファナに含まれる脂溶性のΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)が脳内のカンナビノイド受容体に作用して発現する。

この受容体は脳内で作られる本来のリガンド(内因性カンナビノイド)によって活性化され,様々な生理機能に関与しているが、Δ9-THC はその機能を撹乱することによって、上記のような精神神経作用を及ぼすと考えられる。

内因性カンナビノイドの主要な生理機能として、シナプス伝達の制御が注目されてきたが、特にこの10年でそのメカニズムの解明が飛躍的に進んだ。本稿では内因性カンナビノイドによるシナプス伝達調節について、最近の知見も交えて概説する。

2.内因性カンナビノイド

1964年にΔ9-THCが大麻から抽出され,強い精神神経作用を引き起こすことが明らかとなった。1990年になって、Δ9-THCを結合するGi/oタンパク質共役型受容体(カンナビノイド受容体(後述)が同定され、脳内に広範に存在することが示された。

この事実は、体内で作られるカンナビノイド受容体に結合する内因性のリガンド(内因 性カンナビノイド)が存在することを示唆していた。検索の結果、192年に N -アラキドノイルエタノールアミド(アナンダミド) が、1995年に2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が内因性カンナビノイドとして同定された。

現在、他にもいくつかの分子が内因性カンナビノイドの候補として報告されているが,アナンダミドと2-AGが主要な内因性カンナビノイドであると考えられている。2-AG はカンナビノイド受容体のfull agonistである。また,アナンダミドはカンナビノイド受容体のpartial agonistであり,バニロイド受容体のアゴニストとしても働くことが知られている)。

アナンダミドは生化学的に、二つの酵素反応によって膜のリン脂質から産生されると考えられている(図2)。まず始めに,N-アシル転移酵素によって,ホスファチジルエタノールアミン(PE)からN-アラキドノイル PE が産生される。次に,N-アシルホスファチジルエタノールアミン-加水分解ホスホリパーゼ D(NAPE-PLD)による働きでN-アラキドノイルPEが加水分解されて,アナンダミドとホスファチジン酸が産生される6)。アナンダミドの産生はカルシウム濃度の上昇に依存することが生化学的実験で報告されており,カルシウムがN-アシル転移酵素の活性化を引き起こすと考えられている。

最近,NAPE-PLDノックアウトマウスが作製され,アナンダミド量が調べられたが,このノックアウトマウスではアナンダミドの産生に異常が認められなかった7)。そのため,生体内では上記と別のルートによってもアナンダミドが産生されると考えられるが,その経路についてはまだ明らかになっていない。

生化学的には,2-AGは複数の経路で産生されうるが,生体内では次の経路が主要であると考えられている(図2).2-AGの源は,アラキドン酸を含む膜のリン脂質,特にホスファチジルイノシトール 4,5-二リン酸である。第一段階として,ホスホリパーゼCによって膜のリン脂質からジアシルグリセロール(DG)が産生される。次に,ジアシルグリセロールリパーゼ(DGL)によってDGから2-AGが 産生される8)。


3.内因性カンナビノイドの分解

内因性カンナビノイドは,加水分解によって代謝される (図2)9).加水分解酵素の一つである脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)はシナプス後部ニューロンに局在し,主にアナンダミドを分解する。

アナンダミドはFAAHによってアラキドン酸とエタノールアミンに分解される。また,シナプス前終末内に局在するモノアシルグリセロール リパーゼ(MGL)は,2-AG を加水分解する酵素である。

2-AGはMGLによって,アラキドン酸とグリセロールに分解される。最近,新たに2-AG を分解する酵素としてABHD6と ABHD12が同定された10)。このうち,ABHD6 はシナプス後部ニューロンの細胞膜に存在し,2-AGを分解すると考えられている。2-AGの85% がMGLによって分解され,残りがおそらくABHD6によって分解されると考えられている。

マウスのミクログリア由来のBV-2細胞 で ABHD6をノックダウンすると,加水分解された2-AG量が減少することが報告されている1).また,アナンダミドと2-AG はシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)による酸化反応によっても代謝される10)。

4.カンナビノイド受容体

190年に最初のカンナビノイド受容体(CB1受容体)の遺伝子がクローニングされた12)。カンナビノイド受容体は,7回膜貫通型のGi/o タンパク質共役型受容体であり, 現在CB1とCB2の2種類が同定されている。

CB1受容体は主に中枢神経系の細胞に発現しており,CB2 受容体は主に免疫系の細胞に発現している。CB1受容体は,脳に広く発現しており,特に高次脳機能を司る大脳皮質,記憶の中枢である海馬,恐怖・情動行動を司る扁桃体,運動機能を調節している大脳基底核や小脳といった脳部位に豊富に発現している8)。

神経細胞では,細胞体や樹状突起における発現は弱く,神経終末に豊富に存在しており,以下で詳述するようにシナプス伝達の制御に深く関わっている。グルタミン酸受容体等の一般的な神経伝達物質受容体のリガンド結合部位が細胞外ドメインにあるのに対して,CB1受容体のリガンド結合部位は脂質二重膜内の膜貫通領域にある13)。

このことは,脂質分子である内因性カンナビノイドが細胞膜に溶け込んだのちに膜内を側方移動しCB1受容体を活性化させうることを示唆している.神経終末で の CB1 受容体の活性化は Gi/o タンパク質を介して電位依存 性カルシウムチャンネルを抑制,あるいは電位依存性およ び内向き整流性カリウムチャンネルを活性化する8)。

その結果,神経伝達物質の放出が抑制され,シナプス伝達が抑えられる。CB1受容体はリガンドに長く暴露されると,脱 感作が起きることや,発現量が低下することが知られている。海馬培養細胞を使った実験では,CB1 受容体のアゴニ ストを長期間投与するとCB1受容体の発現量が低下することが報告されている14)。また,アゴニストの長期間投与によって,CB1受容体が細胞膜上で神経終末のシナプス部からシナプス外へ移動することが報告されている15)。これらCB1受容体のダウンレギュレーションは神経回路の活動の恒常性を保つための機構であると考えられている。

最近,オーファン受容体の一つであるGPR5受容体が,カンナビノイド受容体の一種であるかどうかが議論されている。GPR5受容体はΔ9-THCによって活性化される16)が,CB1受容体のアゴニストとして広く用いられている合成カンナビノイドであるWIN5,212-2を投与してもGPR5受容体の活性化が見られないことが知られている。この受容体が真にカンナビノイド受容体として機能するかどうか, 今後の研究が待たれる。

5.内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達抑圧

CB1 受容体が同定され,内因性カンナビノイドが生化学的に検索されていた頃,Llanoらは,電気生理学的実験で,小脳のプルキンエ細胞を脱分極させると,抑制性シナプスの神経伝達物質である GABAの放出が抑制されるという現象を191年に報告した17)。

GABAの放出の抑制は, シナプス後部ニューロンのカルシウムイオン濃度上昇を阻 害することで消失する。したがって,シナプス後部ニュー ロンのカルシウムイオン流入が引き金になり,なんらかの分子がシナプス後部ニューロンから放出され,それがシナプス前終末に逆行性に作用してGABAの放出を抑制していることが示唆された。

翌年,海馬でも同様の現象が発見された18).その逆行性伝達物質の正体としてグルタミン酸や一酸化窒素等が候補に挙げられていたが,決定的な証拠に欠けていた。ほぼ10年が経過した201年に,逆行性伝達物質の正体が内因性カンナビノイドであるということを,私たちの研究室を含む3研究室が同時に報告した19―21)。

その後の研究により,神経活動依存的にシナプス後部 ニューロンで内因性カンナビノイドが産生され,それが逆 行性シグナルとして働き,シナプス前終末に局在する CB1 受容体を活性化することで神経伝達物質の放出を一過性に 抑制することが解明された。この現象を逆行性のシナプス伝達抑圧と呼ぶ。

以下にこれまでの研究で明らかにされた内因性カンナビノイド産生を誘導する機構について詳述する。

Aシナプス後部ニューロンの強い脱分極によるカルシウムイオン流入(図3,a)

シナプス後部ニューロンに強い脱分極刺激を加えると,電位依存性カルシウムチャンネルが開き,カルシウムイオンが細胞内に流入する。細胞内のカルシウムイオン濃度が数μMに達すると内因性カンナビノイドが産生され,逆行性シナプス伝達抑圧が起きる。

この現象は,興奮性シナプスで起きる場合をdepolarization-induced suppression of excita-tion(DSE),抑制性シナプスで起きる場合を depolarization-induced suppression of inhibitio(n DSI)という。

DSE/DSIを引き起こす内因性カンナビノイドが,アナンダミドであるのか2-AGであるのかについては,長い間,決着がつけられていなかった。これまでの多くの研究では,2-AGの産生酵素であるDGLの阻害剤を用いてDSE/DSIにおける2-AGの関与が調べられてきた。しかし,阻害剤の特異性の問題や使用方法の違いのために,研究者間によって相反する結果が報告されていた2―25)。

私たちは,DGLのノックアウトマウスを作製することでこの論争に終止符を打った26)。DGLにはDGLαとDGLβの二つのサブタイプがある27)。

我々は,DGLαとDGLβそれぞれのノックアウトマウスを作製し,小脳,海 馬,線条体の興奮性と抑制性シナプスでDSE/DSIがノックアウトマウスで消失しているかどうかを検証した。その結果,DGLαノックアウトマウスでは上記の三つの脳部位においてDSE/DSIが完全に起きなくなっていること,一方で,DGLβノックアウトマウスではDSE/DSIが正常に起きることを明らかにした。

すなわちDGLαによって産生される2-AGがDSE/DSIを引き起こす逆行性のメッセンジャーであることを証明した。なお,Gaoらも私たちとほぼ同時に,DGLαノックアウトマウスによって海馬におけるDSIが消失していることを報告した28)。脱分極刺激によって流入したカルシウムイオンがどのようにしてDGLαを介する2-AG産生を誘導するのかについては不明であり,この点に関してはさらなる研究が必要である。

BGq/1 タンパク質共役型受容体の活性化(図3,b)

グループI代謝型グルタミン酸受容体 (mGluR1/5)やM1/M3ムスカリン受容体といった Gq/1 タンパク質共役型受容体の活性化でも,内因性カンナビノイドが産生され,シナプス伝達抑圧が引き起こされる29,30)。シナプス後部ニューロンのカルシウムイオン濃度上昇をキレートしても影響を受けないことから,この場合の内因性カンナビノイド産生にカルシウム濃度上昇は必要ない。

上記受容体が活性化されるとその下流にあるPLCが活性化され,PLC-DGLαの経路で内因性カンナビノイドである2-AG が産生される。オキシトシン受容体やセロトニンの5-HT2 受容体といったGq/1タンパク質共役型受容体の活性化によっても2-AGが産生されることが視床下部や延髄の下オリーブ核で報告されている31,32)。

また最近,私たちは,海馬の分散培養細胞で,同じくGq/1タンパク質共役型受容体であるprotease-activated receptor-1の活性化でも2-AGの産生が起き,抑制性シナプスにおいて逆行性シナプス伝達抑圧が起きることを報告した3)。

Cカルシウムイオン濃度上昇と Gq/1 タンパク質共役型 受容体活性化の相乗効果(図3,c)

弱い脱分極や,アゴニストによる閾値以下の弱い受容体の活性化という,それぞれ単独では2-AGの産生が起きないような刺激でも,両者を同時に与えると2-AGが効率よく産生され,逆行性シナプス伝達抑圧が起きる。これは,PLCの活性がカルシウムによって促進されるために,弱い受容体の活性化でも2-AGが産生されることによる30,34)。

実際の生理的な条件下では,シナプス前部の活動上昇による伝達物質放出とそれに続くシナプス後部のGq/1タンパ ク質共役型受容体の活性化と,シナプス後部ニューロンの活動上昇による脱分極とそれによる細胞内カルシウム濃度上昇が同時に起こることは頻繁にみられると考えられる。

特に興奮性シナプスにおいては,放出されたグルタミン酸によって,シナプス後部の mGluR1/5の活性化と細胞内カ ルシウム濃度上昇が同期することが頻繁に起こりうることを考慮すると,この「相乗効果による逆行性シナプス伝達抑圧」が最も生理的な現象であると予想される。

内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達抑圧は様々な脳部位で認められるが,各脳部位のシナプス形態とCB1受容体やDGLα等の内因性カンナビノイド関連分子の発現分布によって,内因性カンナビノイドシグナルの様相は少しずつ異なる8).そこで,主な脳部位における内因性カンナビノイドによる短期シナプス可塑性について概説する。

・海馬(図4,A)

海馬の抑制性介在ニューロンは,発現している分子の違いによってパルブアルブミン(PV)陽性のものとコレシストキニン(CCK)陽性のものに大きく分けられる。CB1受容体はCCK陽性介在ニューロンの終末に最も強く発現しており,PV 陽性の介在ニューロンには発現していない35)。

CA1の錐体細胞上の興奮性シナプス終末には,CCK陽性の抑制性シナプスに比べると弱いながらもCB1受容体が発現している36).一方,DGLαは,CA1錐体細胞樹状突起のスパインに最も豊富に発現している37,38).MGLは,CB1受容体が発現しているCCK陽性の抑制性ニューロンにも,CB1受容体が発現していないPV陽性の抑制性ニューロンにも発現しており,ともにシナプス前終末内部に局在している。

興奮性シナプスのシナプス前終末や,グリア細胞にもMGLは発現している39).MGLが内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達抑圧において,そのシグナルの終結を制御していることはMGLを薬理的に阻害するとDSIが遷延することから明らかにされた40,41)。

海馬 CA1錐体細胞と興奮性シナプス間のDSEは,DSIに比べると起きにくく,DSI 誘導より強い脱分極刺激が必要である42).このことは,CB1受容体の発現パターンの特性を表わしていると考えられる。海馬では,電位依存性カルシウムチャンネルを介するカルシウム流入以外にNMDA受容体を介して流入するカルシウムによっても内因性カンナビノイドが産生され,逆行性シナプス伝達抑圧 が起きることが報告されている43)。

内因性カンナビノイドによる新しいシナプス可塑性として,最近,海馬のアストロサイトに発現しているCB1受容体が錐体細胞におけるシナプス可塑性を引き起こすことが報告された4).アストロサイトに発現しているCB1受容体は近傍のCA1錐体細胞で産生された2-AGによって活性化され,アストロサイトでのカルシウム濃度上昇を引き起こす。

アストロサイトでカルシウムイオンが上昇すると,アストロサイトからグルタミン酸が放出され,CA1錐体細胞に入力している興奮性シナプス前終末にある mGluR1を活性化することで,神経伝達物質の放出を促進する。つまり,内因性カンナビノイドは産生された部位のシナプスでは神経伝達物質の放出を抑制し,他のシナプスではアストロサイトを介して神経伝達物質の放出を促進する働きをもつと考えられる。

アストロサイトにおけるCB1受容体の発現とその機能については,まだ議論の余地があり今後の研究が待たれる。

・小脳(図4,B)

小脳皮質は,顆粒細胞層,プルキンエ細胞層,分子層の3層からなる.プルキンエ細胞には,顆粒細胞の軸索が分子層で分岐してできる平行線維と,下オリーブ核が起点である登上線維が興奮性シナプスを形成している。また,分709子層にあるバスケット細胞と星状細胞が抑制性のシナプスを形成している36)。

CB1受容体は平行線維の軸索に最も多く発現しているが,シナプス終末部に限局すると抑制性シナプスの前終末に最も豊富に発現しており,次いで平行線維終末に多く発現している36).また,プルキンエ細胞の細胞体にはごく弱いCB1受容体の発現が見られる36)。

DGLαは,プルキンエ細胞の樹状突起に豊富に発現しており,特に,スパインのネックの部分に集積していることが特徴である38).興奮性シナプスでは,mGluR1もスパインの縁に発現していることから,mGluR1と DGLα が空間的に近くにあることで,2-AGの産生を効率よく行うことができる配置になっていると予測される。また,MGLは平行線維終末に最も多く発現している。

一方,登上線維や抑制性シナプスの終末には,ほとんど MGLの発現が認められない45).前述のように小脳は初めてDSIが観察された部位であり,DSEも平行線維,登上線維とプルキンエ細胞間の興奮性シナプスにおいて小脳で初めて報告された19)。

Gq/1タンパク質共役型受容体の活性化によって引き起こされる逆行性シナプス伝達抑圧は,登上線維とプルキンエ細胞間のシ ナプスにおいて私たちが最初に報告した29)。 mGluR1のアゴニストであるDHPGを投与すると,mGluR1 が活性化し下流の PLCβ4―DGLα の経路によって2-AGが産生され逆行性シナプス伝達抑圧が起きる。

同様のメカニズムで,抑制性シナプスや平行線維シナプスでもDHPGの投与によって逆行性シナプス伝達抑圧が起きることが確認された。

小脳では,脱分極刺激や,薬剤投与による受容体の活性化だけではなく,シナプス刺激による内因性カンナビノイドシグナルが詳しく調べられている29,34,46).平行線維もしくは登上線維を高頻度で刺激すると平行線維応答,登上線 維応答が一過性に減弱する。

この現象は,mGluR1の特異 的阻害剤とAMP A受容体のブロッカーによって阻害されることからmGluR1の活性化と AMPA受容体が必要であることが分かっている。平行線維にテタヌス刺激を加えることで,平行線維終末からグルタミン酸が大量に放出されるために,プルキンエ細胞のmGluR1が活性化され,同時にAMP A受容体の活性化によりプルキンエ細胞が脱分極 し,カルシウムイオンが流入する34,46)。

そこで,受容体の活性化とカルシウムイオンによる相乗効果で2-AGが産生され,逆行性シナプス伝達抑圧が起きるというメカニズムが考えられている34).

・扁桃体(図4,C)

扁桃体の基底核では,非常に特徴的なシナプスの構造と内因性カンナビノイド関連分子の分布がみられることが最近報告された。基底核の錐体細胞に入力している抑制性シナプスのうち,CCK陽性の抑制性ニューロンは,シナプス前終末の一部がシナプス後部ニューロンに食い込んだ形 のシナプスを形成していることが分かった47)。

このシナプス構造は,陥入型シナプスと呼ばれている。CB1受容体は,陥入型シナプスを形成する神経終末に最も豊富に発現しており,また,陥入部のシナプス後部には DGLαが集積している。さらに,MGL も陥入型シナプスの前終末に最も豊富に発現している。一方,CCK陰性の抑制性シナプスは陥入型の構造をしておらず,CB1受容体,DGLα,MGLはほとんど発現していない。

また,興奮性シナプスにおいては低レベルであるもののCB1受容体,DGLαの発現が認められる47)。基底核でみられる陥入型シナプスは, 扁桃体の外側核の抑制性シナプスでは認められず,また,外側核ではCB1受容体,MGLの発現ともに基底核よりも少ない。

扁桃体におけるDSIは,基底外側核でLovingerらのグループによって初めて報告された48).また,Yoshidaらは,基底核において,弱い脱分極刺激(0.5秒間0mV)で抑制性シナプス伝達の減弱(DSI)が強く起きるのに対し,DSEは同様の脱分極刺激では起きにくいことを示している47)。これらの結果から,基底核の陥入型シナプスは,非常に効率よくカンナビノイドシグナルが働く構造と分子配置を備えているといえる。

6.内因性カンナビノイドによる長期シナプス可塑性

以上述べてきた逆行性シナプス伝達抑圧は,数十秒程度 持続する一過性の現象であるが,このような短期シナプス可塑性だけではなく,シナプス伝達効率が数十分にわたって低下する長期抑圧(long-term depression:LTD)にも内因性カンナビノイドが寄与することが明らかになった49)。

内因性カンナビノイドによるLTDは脳の様々な部位で報告されており,興奮性シナプスでは背側線条体,大脳皮質,側坐核,小脳,海馬,背側蝸牛神経核等で報告されている 23,50―54). 一方,抑制性シナプスでは, 扁桃体と海馬での報告がある5,56)。

内因性カンナビノイドによるLTDを誘 導するためには,LTD 誘発刺激中に内因性カンナビノイ ドが産生されCB1受容体が持続的に活性化されることが必須である。また,これまでに報告された内因性カンナビ ノイド依存的なLTDは,小脳プルキンエ細胞を除く脳部位の全てにおいて,シナプス前終末からの神経伝達物質放出の持続的抑圧によることが明らかになっている。

ここでは,最も研究が進んでいる海馬の内因性カンナビノイド依存的LTDについて紹介する。

海馬 CA1錐体細胞の抑制性シナプスにおいて,内因性 カンナビノイド依存的LTDが起きることをChevaleyreとCastilloらが発見した2)。このLTDは放射状層を高頻度刺激することによって抑制性シナプスで誘導される。彼らは,様々な薬理学的実験からmGluR1/5とCB1受容体の活性化がこのLTDに必須であることを明らかにした。

mGluR1/5の下流には,PLCβ-DGLαを介する2-AG産生経路がある。彼らはさらに,PLCとDGLを薬理的に阻害するとLTDが起こらないことを示した。以上のことから,高頻度刺激によってmGluR1/5が活性化されると2-AGが産生・放出され,抑制性シナプスに存在するCB1受容体が活性化されてLTDが誘導されると考えられている。

ここで疑問にあがるのは,LTDが発現する抑制性シナプスから放出されるGABAはmGluR1/5を活性化できないのに,何故2-AGが産生されるのかということである。mGluR1/5の活性化には,言うまでもなくグルタミン酸が 必要である.放射状層には興奮性の軸索が豊富に存在していることから,この部位の高頻度刺激は興奮性シナプス終末からのグルタミン酸放出を引き起こし,その結果,mGluR1/5が活性化されることで2-AGの産生を誘導していることが予測された。

実際に,興奮性の入力がほとんどない錐体細胞層を高頻度刺激してもLTDは誘発されなかったことから,LTDを誘導する2-AG産生源は興奮性シナプスであると考えられる。以上のことから,海馬 CA1錐体細胞の抑制性シナプスにおける内因性カンナビノイド依存的LTDは,興奮性シナプス部位で産生された2-AGが抑制性シナプス終末にあるCB1受容体を活性化して起きる異シナプス性のLTDであると考えられている(図5)。

海馬の内因性カンナビノイド依存的LTDでは,LTD誘導刺激後5分から10分間のCB1受容体の活性化が引き金となり,シナプス前終末からのGABAの放出が長期的に低下することで生ずる。図5に示すように,これにはあるタンパク質の脱リン酸化とRIM1α,及び抑制性ニューロンの活動が必須であることが報告されている56,57)。

最近,海馬歯状回の顆粒細胞に入力する貫通線維の興奮性シナプスにおいて,アナンダミドがTRPV1受容体を介してシナプス後部ニューロン性にLTDを引き起こすこと が報告された58).このLTDの誘導にはCB1受容体の活性化は不要でシナプス後部ニューロンで産生されたアナンダミドがシナプス後部ニューロンに局在するTRPV1受容体を活性化し,AMPA受容体の細胞内への取り込みを引き起こすことによって生ずると報告されている。

側坐核でもアナンダミドによって同様のLTDが起きることが同時 期に報告されている59).TRPV1受容体の活性化からAMPA受容体の取り込みまでのメカニズムはまだ不明であるが,このアナンダミドによるLTDは,これまで報告されてきた内因性カンナビノイドによるLTDとは独立して起こるとされている。

7.内因性カンナビノイドの生理的役割

Gq/1タンパク質共役型受容体,PLC,DGLα,MGL 等の 2-AG の産生と分解に関わる酵素とCB1受容体の発現量や分布が内因性カンナビノイド(2-AG)シグナルの調節に影響を与えることは,先に述べたとおりである。

最近になって,内因性カンナビノイド関連分子の活性や発現を調節する分子,生育環境や経験等による2-AG産生やCB1受容体の発現量の変化に関する報告が続いている。生後21日齢のラットを社会的に隔離すると,海馬でCB1受容体,DGL,MGLのmRNAレベルが上昇することが報告されている60)。

また,恐怖刺激を与えた翌日には, 側坐核の中心核でCB1受容体の発現量が上昇し,DSEがより強く起きるようになることも報告されている61).視床 下部では慢性的な拘束ストレスによって,ストレスホルモンであるコルチコステロン量が上昇すると,Gq/1 タンパク質共役型受容体であるコルチコステロイド受容体を介する2-AGの産生が増強される。

そのため,視床下部でCB1受容体の脱感作および発現量の低下が引き起こされ,結果としてDSE/DSIが起こらなくなることが報告されている62)。

さらに,CB1受容体の阻害剤を動物に投与しておくと薬物依存になりにくいことから,薬物依存の形成に内因性カンナビノイドシグナルが重要な役割を果たすことが知られている63).エタノールをラットに与えると,報酬系回路の一部を担う側坐核で2-AG量が増加する。

一方,モルヒネやヘロインは側坐核の2-AG 量を減少させる64,65).2-AG量が増減する原因の詳細は不明であるが,薬物の作用機序によって内因性カンナビノイドシグナルの役割が異なっていることが示唆される。これらの研究は,環境・経験依存的に内因性カンナビノイドシグナルが変化することで,神経細胞に入力する情報を調節していることを示唆しており,内因性カンナビノイドの生理的役割を考える上で非常に興味深いものである。

8.内因性カンナビノイド関連分子ノックアウトマウス ここでは,各内因性カンナビノイド関連分子に関する

ノックアウトマウスについて紹介する。

CB1 ノックアウトマウス

CB1 ノックアウトマウスは19年に ZimmerらとLe-dentら6,67)によって,それぞれ独立に作製されて以来,カンナビノイドシグナル研究に広く用いられてきた68).最近では,細胞や部位特異的ノックアウトマウス作製技術の進展により,脳部位/細胞特異的にCB1をノックアウトしたマウスを用いた実験が報告されている69―71)。

1例をあげると,食欲と内因性カンナビノイドとの関連を調べた研究において,前脳の興奮性ニューロン特異的にCB1をノックアウトしたマウスは餌の摂取量が低下するのに対し,抑制性ニューロン特異的にCB1をノックアウトしたマウスでは,反対に摂取量が増加することが報告されている69)。

これらの結果から,興奮性と抑制性のシナプスにおける内因性カンナビノイドシグナルのバランスが摂食行動の調節に必要であることが示唆される。以上のように,脳部位/細 胞特異的 CB1ノックアウトマウスを用いることで,ある行動に,どの脳部位のカンナビノイドシグナルが関係するかを推測することが可能になりつつある。

・DGLα ノックアウトマウス・DGLβノックアウトマウス定常状態での脳サンプルにおける2-AGの量は DGLα ノックアウトマウスで激減しているのに対し,DGLβ ノックアウトマウスの2-AG量は,野生型マウスと差がない。

この結果から,2-AG の多くはDGLαによって産生されることが明らかになった。また,アナンダミドも,DGLα ノックアウトマウスの脳サンプルで減少していた26,28)が,この原因は不明であり,今後の研究が待たれる。

前述のとおり DGLαを介して産生される2-AGが逆行性シナプス伝達抑圧を担うメッセンジャーとして働くことが電気生理学的に示された。一方,DGLβの役割や局在についてはよく分かっていないが,Gaoらは肝臓における2-AG量がDGLβノックアウトマウスでは激減していることを報告しており28),DGLβ は中枢神経系よりも末梢での2-AG 産生に関与していることが考えられる。

・MGL ノックアウトマウス

MGL ノックアウトマウスの海馬では,CB1 受容体の脱感作および発現量の低下が起きていることが報告されている72).MGL ノックアウトマウスの脳では2-AG の分解が滞るために,定常状態で2-AG 量が野生型マウスに比べると顕著に増大しており,その結果CB1受容体の脱感作および発現量の低下が起きていると考えられる。そのため, MGLノックアウトマウスの海馬では,カンナビノイドシグナルが減弱した状態になっている。

・FAAHノックアウトマウス

FAAH ノックアウトマウスでは,定常状態でのアナンダミド量が野生型より15倍に増えており,N-オレイン酸エタノールアミンやN-パルミトイルエタノールアミンといったN-アシルエタノールアミン類も同様に増加している。また,FAAHノックアウトマウスでは熱刺激による疼痛の反応性が野生型よりも鈍くなっている。その現象は,CB1受容体の阻害剤を投与しておくことで消失することから,熱刺激による疼痛の反応性に内因性カンナビノイドシグナルが関与していることを示唆している。

9.おわりに

内因性カンナビノイドがシナプス伝達を逆行性に調節していることが明らかになってから,その分子メカニズムの理解はかなり進んだ。しかし,未解決の問題も多い。例えば,内因性カンナビノイドはどのように放出され,CB1受容体に作用するのかについては,明らかになっていない。

内因性カンナビノイドのトランスポーターが存在するという研究報告もあるが,そのトランスポーターの分子実体は不明である。また最近では,活動依存的に2-AG は産生されるのではなく,シナプス後部ニューロンに貯め込まれた2-AGが,カルシウム流入をきっかけに放出されるとの仮説も立てられている。

内因性カンナビノイドの生理機能については,興味深い研究結果が次々に報告されている。これまでに,内因性カンナビノイド系は,記憶,認知,不安,痛み,肥満や依存 症などに関与していることが分かっている。

しかしながら,実際に生体内で内因性カンナビノイドシグナルが,いつどのように機能することで,行動の表出につながるのかはまだ不明な点が多い。生化学・分子生物学,電気生理学,行動学的解析を組み合わせることによって,内因性カンナビノイドシグナルとその脳機能における役割の総合的理解が進むことが期待される。

内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達調節のメカニズム谷村あさみ,橋本谷 祐輝,狩野 方伸

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