最新研究:化学療法が癌の再増殖を促進する可能性

一部の癌は最新薬を利用しても克服するのは困難です。ある種の化学療法が腫瘍細胞にとって安全な隠れ家を提供し、長期的に見て癌の再発や再成長を促すことが新たな研究によって明らかになりました。

癌を治療する適切な薬を見つけるのは非常に困難です。癌細胞は、最新薬から逃れることに特に長けているからです。

優れた化学療法の証は、腫瘍の成長を阻止する、または遅らせることです。多くの薬剤が、計画的細胞死またはアポトーシスと呼ばれる経路を活性化することによって腫瘍の成長を阻止します。しかし、ある種の癌はアポトーシスに耐性を示します。したがってこれらの腫瘍を破壊するには、他の手段を見つけなければなりません。

代替策は、癌細胞内のDNA遺伝子コードを修復できなくなるまでダメージを与えることです。その後、癌細胞は細胞老化と呼ばれるプロセスの活性化に反応します。

50年以上前に発見された細胞老化は、不可逆的な成長停止状態だと考えられています。これは、細胞がその状態であり続けるが、それ以上成長しないことを意味します。しかし細胞老化は一部の人が願っていたような、癌を根絶させる絶対確実な方法ではなかったことが分かりました。

科学者は、なぜ細胞老化が癌幹細胞の温床となり得て、腫瘍の再増殖・転移を引き起こす可能性があるのか、その謎を解く証拠を発見しました。

細胞老化は癌細胞を眠らせる

先月フロンティアーズ・イン・オンコロジー誌に投稿したオーストリアにあるウィーン天然資源大学の准教授マルクス・ショセラー医学士は、細胞老化は胚形成、創傷治癒ならびに自然な老化プロセスにおいて重要であると説明しました。また細胞老化は、生きているが分裂しない細胞の中で癌細胞を長期間睡眠と関連づけられる状態にさせます。

「腫瘍防御における細胞老化の役割に関する根本的な議論は以下の通りです。すなわち、老化細胞は代謝的に完全に活性しているにもかかわらず、細胞分裂能力を永久に失っています。これは実際、原発性がんのさらなる癌性増殖を防ぐでしょう」

しかしこれはそれほど単純ではない、とショセラー博士は続けます。老化癌細胞が、炎症を引き起こし、癌の再増殖に十分な環境を促進する分子を分泌できることを示す証拠は豊富にあります。

今度はドイツの研究者が驚くべき発見をしました。細胞老化は癌細胞の死を防ぐだけでなく、癌細胞を癌幹細胞に変化させるのです。

「眠れる美女」から癌幹細胞へ

ドイツ、ベルリンのシャリテー医科大学病院およびマックス・デルブリュック・センター分子医学科の血液学、腫瘍学および腫瘍免疫学クレメンス・A・シュミット博士が、先日ネイチャー誌に革新的な研究結果を発表しました。

最新研究では、マウスのリンパ腫の腫瘍細胞が使用されました。リンパ腫とは、リンパ球と呼ばれる白血球に影響する癌の一種です。細胞老化を誘発する薬でリンパ腫細胞を治療すると、予測どおりリンパ腫細胞は分裂を止めました。

しかし、その代わりに別のことが起こりました。老化癌細胞は幹細胞に類似し始めたのです。特に、幹細胞性という集合名で呼ばれる幹細胞機能の維持に不可欠な、p21やp53といった遺伝子を表現し始めました。

幹細胞性ががんにおいてこれほど厄介な理由は、癌幹細胞は腫瘍の再増殖や拡散、転移を促すと考えられているからです。しかし老化細胞は分裂しないのに、幹細胞性を発揮するのは問題となるのでしょうか?

幹細胞性はがん成長を加速させる

科学者が発見したのは、リンパ腫モデルにおける細胞老化に関連づけられた幹細胞性の証拠だけではありません。別のがん細胞モデルでも同じことが起こり、重要なことに初期のB細胞慢性白血病患者の腫瘍サンプルにもこれらの細胞が検知されました。

次にシュミット教授チームは遺伝子操作を使って、細胞老化からがん細胞を解放しました。細胞は通常の細胞分裂プロセスに戻るでしょうか?その答えはイエスです。がん細胞は数日以内に増殖を始めました。実際、細胞老化を経ていない細胞よりもずっと速く増殖したのです。

研究チームが一度老化プロセスを経た癌細胞をマウスに移植したところ、新たなリンパ腫の発生を促すのに必要な細胞はほとんどありませんでした。

これらの結果からは、幹細胞性を得た細胞が細胞老化から脱すると、非常に癌性が強くなることが分かります。しかし、癌細胞が不可逆的と考えられている細胞老化状態から抜ける確率はどれほどなのでしょうか?

研究チームは、癌細胞が実際、細胞老化から脱することができる証拠を発見しました。また、リンパ腫が再発した患者の腫瘍サンプルにおける一度老化した幹細胞の方が、最初の治療を受けたときの同じ患者のサンプルよりも顕著であったことを特定しました。

これは細胞老化を誘発する化学療法薬にとって悪いニュースなのでしょうか?

化学療法を見直す時期か?

シュミット教授は次のように説明しています。「これらの結果は重要な臨床的意義を持ちます。なぜなら、原則として腫瘍細胞がどのように非常に有効な抗癌治療から逃れるのか、これまで分かっていなかった見識が得られたからです」

「幸いなことに私たちは、一度老化した細胞が新たに獲得したがん幹細胞性を直接標的にし、その腫瘍増殖に関する機能的便益を中和させる遺伝的および薬理学的アプローチを提示することができました」

実際、研究チームは、老化細胞が幹細胞性を発達させるとWntと呼ばれる特定の幹細胞シグナル伝達経路が活性化されることを発見しました。薬物投与または経路内の遺伝子の一つを遺伝子操作することによってWnt経路を切ると、腫瘍増殖は抑制されました。

ネイチャー誌の添付論文では、オランダにあるアムステルダムがんセンターの実験腫瘍学および放射線生物学教授ジャン・ポール・メデマが次のように記しています。「本データは、癌細胞が細胞老化から脱すると腫瘍増殖を促す能力が強化されるという有力な証拠を提供しています。この研究結果は強力な臨床的意義を持ちます」

「我々が現在思い描いている将来的実験および臨床試験においては、リンパ腫患者における細胞老化に関連する再プログラム化の役割に取り組み、これに対する具体的な治療戦略の開発をしたいと考えています」— クレメンス・A・シュミット教授

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参考:MedicalNewsToday