炎症性腸疾患(IBD)は現代的、西洋的な現象です。50年前には実質的に存在しませんでした。IBDにはクローン病、潰瘍性結腸炎などの疾患が含まれます。医師に処方される免疫抑制剤や抗炎症剤によって効果を感じられる患者は少ないため、患者の一部は治療法として医療大麻に注目し始めています。
目次
1.クローン病、潰瘍性結腸炎の症状
どちらの疾患にも共通するのが架空の脅威に対する免疫系の誤反応で、結果として根本的な慢性炎症を引き起こします。潰瘍性結腸炎の場合は腸で慢性炎症が起こり、クローン病の場合は炎症が消化管全体におよびます。症状は、腹痛、筋けいれん、過剰な排便、直腸出血、疲労、過度な体重減少などです。
2.多くのIBD患者が大麻を利用
これらの疾患に共通するもう一つの点は、患者の大麻使用率が高いことです。約200人の潰瘍性結腸炎およびクローン病患者を対象にした研究では、33〜50%の患者が、腹痛、下痢、食欲減退を含むIBD関連の症状を緩和するために大麻を使用したことがあると報告しました。また医療大麻が合法の州ならびに国の多くで、事例証拠に基づき、クローン病は医療大麻の対象疾患となっています。
その一例に、医師に処方された免疫抑制剤および抗炎症剤が効かなかったために医療大麻に乗り換えた10代の青年コルティン・ターナーがいます。大麻のおかげで大幅な健康改善が見られた、とコルティンは信じています。腹痛に苦しんだ車椅子生活は過去のものとなりました。
別のクローン病患者ショーナ・バンダは、自作の大麻オイル摂取後の回復を記録した本「リヴ・フリー・オア・ダイ」を出版しました。ショーナの病状は「死にたくなる」と表現するほど悪化しましたが、大麻を摂取し始めるとすぐに症状の改善が見られ、最終的には全ての処方薬をやめることができました。
スペイン人研究科学者が自身のIBDのために大麻を摂取
人間・動物の生殖に関するエンドカンナビノイドシステム専門のスペイン人科学者・研究者、エカイッツ・アヒレゴイシアによる体験です。14年前、エカイッツは潰瘍性結腸炎と診断されました。
「 10kgも体重が落ちました。疲労感が大きく、弱々しかったです」とエカイッツ。「私の体が体内に細菌の侵入者がいるに違いないと考えたことから炎症が起こり、私は発熱していました。トイレに行くと、便には血が混ざっていました。私は貧血で、腸には潰瘍があり、常に大きな疲労感を感じていました。それに加え、夜中も含めて1日に少なくとも10回は排便がありました。いつ起こるか予測はできません。これらの症状は全て、生活の質に関わります」
カンナビノイド研究分野に携わっていたにもかかわらず、エカイッツはすぐに大麻草を求めませんでした。しかし1年半前、従来の薬が効果を示さなかったため、大麻を喫煙し始め、その後大麻オイルを摂るようになりました。
エカイッツにとっては、第一面記事に載るような体験談が主張するほどの即座で奇跡的な緩和は起こりませんでした。しかし、6ヶ月から1年かけて徐々に症状が改善していきました。
「もう1年半ほど熱は出ていませんし、失った体重も戻りました。普通に1日3、4回トイレに行きますが、夜中に行くことはありません。これは大きな変化です」
3.大麻がIBDに効く理由:エンドカンナビノイドシステム
カンナビノイド研究科学者であるエカイッツにとって、大麻が持つエンドカンナビノイドシステムを刺激する力によって症状が緩和されたのは驚きに値しませんでした。エンドカンナビノイドシステムとは、睡眠、食欲、気分、炎症および免疫系を調節する、体内の大麻のような化学物質や受容体のネットワークです。
「全ての疾患においてエンドカンナビノイドシステムはバランスを崩しているのだと確信しました。正常にシステムが機能していれば、体は恒常性を保てるのです」
体内の免疫細胞の少なくとも70%が腸にあること、消化系の状態や細菌による攻撃に関する警告について絶えずメッセージを送り合うニューロン、化学物質、ホルモンの広範なネットワークが腸にあることから腸は第二の脳だとさえ考えられています。そのことを考慮すると、この理論はIBDにおいて道理にかなっています。
結腸の内膜にもCB1およびCB2エンドカンナビノイド受容体は存在します。IBD患者においてはCB2受容体が圧倒的多数で存在し、増大した炎症反応を示唆しています。CB1受容体による腸運動性(排便)および分泌を管理する役割を考慮しない訳ではありませんが、それについては後に述べます。
IBD患者にとって、エンドカンナビノイドシステムによる自然な抗炎症化学物質だけでは免疫系の均衡を元に戻すことができません。したがって、植物性カンナビノイドの助けを借りることで恩恵を得られる可能性があります。
4.クローン病や潰瘍性結腸炎に大麻が役に立つ可能性
ジェフリー・ハーゲンラザー博士の「初期診療における大麻」と題されたスピーチによれば、CB1受容体の活性化は、腸運動および腸分泌を下方調整する一方で、炎症、痛み、腫瘍のリスクを軽減します。博士は次のように続けています。「CB2受容体の活性化は、内臓痛および炎症を軽減し、腸運動を下方調整します。これらは、クローン病患者に大きな影響を与えます」
大麻草に最も多く含まれるカンナビノイドTHCはCB1受容体に対して強力な結合親和性を持ち、過剰な排便および下痢の軽減に有効であることが分かっています。多くの場合、IBD患者にとって食べ物に含まれる栄養素の吸収が困難で、また食欲もあまりありません。しかしCB1が大きく活性化されれば、過度な腸運動が抑制され、THCのよく知られた「空腹感」効果が起こるため、栄養を吸収する余裕ができます。また患者は疾患によって失った体重を取り戻せる傾向にあります。
THCはCB2受容体にも結合して抗炎症効果をもたらしますが、THCが非精神活性カンナビノイドのカンナビジオール(CBD)と共に作用する方が炎症軽減効果は促進されることが分かっています。
5.CBDの抗炎症メカニズム
スペイン人科学者エカイッツ・アヒレゴイシアは、CBDによる抗炎症メカニズムの作用の仕方を説明しています。
「T細胞からサイトカイン(細胞内信号伝達および免疫反応において活発なタンパク質)が出現します。TH-1は炎症性でTH-2は炎症性ではありません。カンナビノイドはTH-1をTH-2に変化させ、抗炎症効果をもたらすことが示唆されています」
「CBDは炎症効果に関与する酵素シクロオキシナーゼを抑制できます」
まさにこのCBDによる抗炎症作用が特に科学界の関心を集めたのです。なぜならCBDは、望まれない精神活性効果を伴わないからです。CBDはエンドカンナビノイドシステムのどの受容体にも直接的に結合せず、エンドカンナビノイドではない受容体に親和性を持つため、CBDの治療作用を正確に示すのは困難です。
例えば、疼痛知覚、炎症、体温を調節することで知られるバニロイド受容体(TRPV-1)があります。CBDはTRPV-1アゴニストです。すなわちCBDはTRPV-1を刺激するので、痛みや炎症を調節するのに役立つのです。
2012年に発表された「炎症性腸疾患におけるカンナビジオール:概要」と題された論文のなかで、著者は次のように述べています。「CBDによる有益な免疫調整効果は、IBDの実験動物モデルにおいて幅広く証明されています。CBDは並外れて広範の有益な効果を持ち、病気の進行を遅らせ、症状を改善し、また潰瘍性結腸炎またはクローン病といった腸疾患を解消する治療において使用される薬の有効性を潜在的に向上させる可能性があります」
実際にIBDに対して最適なのは大麻全草
THCを含む大麻製剤が違法の国では、CBDが慢性炎症に伴うIBDの症状に好ましい緩和をもたらすことができますが、THCとCBDの組み合わせを含む全草薬の方が最適であることを事例証拠が示しています。
科学者のアヒレゴイシアはこれを証明しています。
アヒレゴイシアは潰瘍性結腸炎の治療にTHCとCBDの組み合わせを使用し始めました。THCによる精神活性効果は耐え難いと感じた一方で、2つのカンナビノイドの組み合わせは炎症や痛みを軽減するだけでなく、過剰な排便や下痢も軽減することが分かりました。過去数ヶ月はCBDのみの投薬計画に変えたところ、炎症関連の症状は引き続き緩和されましたが、腸運動性ならびに排便回数は悪化するように見えました。
6.11人中10人が症状緩和!人体研究で示された有望な結果
しかし科学的な意味で医療大麻が真剣に受け止められるためには、確固たる事実や臨床試験が必要とされます。現時点では相変わらず事例証拠の方が、厳密な臨床試験よりはるかに勝っています。
2005年に行われた試験研究で、大麻を摂取した12人のクローン病患者の体験と治療後のIBD症状を調べました。
研究の著者は次のように述べています。「患者は大麻の使用により顕著な改善を見せました。食欲、痛み、吐き気、嘔吐、疲労感、運動、うつ症状において有益な効果が報告されました。また大麻の使用によって、体重増加、1日あたりの排便回数の低下、突発症状の軽減や重症度の緩和も報告されました」
多くの患者が、処方されている免疫抑制剤の量を減らすことができると感じました。
2012年に30人の大麻を使用している患者を評価したわずかに規模が大きい研究でも、同様の結果が得られました。記録された重要な改善は、大麻による治療後に必要とされるIBD関連の手術が減少したことです。
しかしこれまでのところ、最も臨床試験に近い研究は、2013年にテルアビブ大学胃腸病学・肝臓病学科で行われた12人のクローン病患者に対する小規模なプラセボ研究のみです。他の薬剤が効果を示さない被験者は2つのグループに分けられ、一方は1日2回115mgのTHCを喫煙し、もう一方はTHCを除去した大麻を与えられました。
完全な緩和が得られたのは11人中5人で、11人中10人に症状の改善を伴う臨床反応が見られました。また実験中に、3人の患者がステロイド依存から脱しました。
著者は次のように述べています。「主要エンドポイント(緩和の誘導)は達成できなかったが、短期間(8週間)にわたるTHCが豊富な大麻の摂取は重大な臨床効果をもたらしました。プラセボと比較して、クローン病患者11人中10人にステロイドが不要となる効果が得られ、副作用はありませんでした」
これらの研究結果、ならびにスペイン人科学者アヒレゴイシアによる個人的な体験は、もし治療が長期間に拡大され、また全草の大麻草が使用された場合、さらに改善されるでしょう。
本格的な治療法として医療大麻というオプションが選択できるようになるためには、まだ大規模な臨床試験が足りていません。しかし、本記事で紹介したように医療大麻の成分であるTHCやCBDの抗炎症特性は、炎症が主な症状の原因であるIBDにおいて高い有効性を示しています。さらなる研究に期待したいですね。医療大麻が合法化されていない日本でもCBDオイルは合法的に使用することができるので、IBDの症状が辛い方はCBDオイルを取り入れてみるのもいいかもしれません。
