最近ではCBDの利点を訴えるスポーツ選手がちらほら増え始めていますが、自転車競技界にも新風が吹き始めているようです。大麻ブランドによるスポンサーや、元プロ選手によるCBDブランドなどについて記事を紹介します。
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自転車競技の世界で薬物の話を始めるのは危険です。現在に至るまで汚点となっている過去のスキャンダルというブラックホールに吸い込まれてしまうでしょう。しかし、フロイド・ランディスやティール・ステットソン・リーといった選手たちは、大麻使用の汚名挽回に関してそのリスクをとろうとしています。
過去に汚名を負わされた元ツール・ド・フランス勝者のフロイド・ランディスは最近、薬物との結びつきを受け入れました。ランディスはツール・ド・フランスで優勝した後に薬物を押収されて以降数年間、2006年に受けた腰の手術後の痛みに対処するために摂取していたオピオイド系鎮痛剤の中毒と戦いました。解決策は大麻でした。ランディスは大麻が持つ中毒性のない鎮痛特性を称賛し、大麻の地位正常化のための伝道者となり、大麻オイル企業に投資さえしています。
アメリカで大麻の合法化が進むなか、自転車競技界も大麻とその派生物に対する姿勢を緩和するべきでしょうか?ますます多くの選手や業界人がそれに賛同しています。大麻法はアメリカで急速に変化しつつあります。現在29州で大麻の医療使用が認められており、6州では娯楽大麻の使用も合法化されています。
しかしスポーツ界では、いかなるタイプのカンナビノイドの使用も、治療使用特例(TUE)の承認がなければ厳しく禁じられています。それにはカンナビジオール(CBD)も含まれます。CBDは大麻の精神活性成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)を含みません。
しかしそれも変化しつつあります。
10月、世界アンチドーピング機構(WADA)は禁止薬物リストの更新を発表し、アルコールやミトラギニン、テルミサルタンとともにCBDも禁止薬物リストから除外されました。
すなわち2018年1月1日からは、アスリートたちはTHCが含まれない限り、CBDの使用が認められます。
医薬品としての大麻
アメリカで大麻の薬効や治療特性が徐々に受け入れられるにつれて、ますます多くのアスリートが鎮痛剤や抗炎症剤の代替薬としてCBDを求め始めました。THCを微量または全く含まないCBD製品には大麻に関連する精神活性効果がありませんが、痛み、不安、うつ、不眠症の治療に効果的であることが証明されてきました。
サッカーや野球界の有名選手の中にも、回復や疼痛管理におけるCBDの使用を支持する人がいます。自転車競技界も例外ではありません。
元プロ自転車選手フロイド・ランディスは、人工股関節置換手術を受けたあとオピオイド系鎮痛剤の中毒になって以来、CBDを積極的に支持してきました。中毒性のない代替薬を探していたランディスは、大麻とCBDを紹介されました。そしてこれらの支持者となったのです。ランディスはその効果を信じるあまり、アスリートのためのCBDサプリメントに特化したヘンプシードオイル会社フロイズ・オブ・リードヴィルを立ち上げました。
ランディスはサイクリングティップスに対して次のように語りました。
「コロラド州に住んでいた私は、疼痛管理を調整する方法として大麻を発見しました。すぐに健康に悪影響を与える習慣性のある鎮痛剤に依存しなくなりました。実は大麻には多くのプラス効果がありました。私は痛みを感じなくなり、長い間感じていなかった幸福感を感じるようになりました。大麻はタブーだから近づいてはいけないものとかつて考えていた人たちにも、たくさんの価値と効果をもたらしてくれると思います」
他の大麻企業もスポーツ界に参入しようとしています。ネヴァダ州に拠点をおく大麻栽培・抽出企業カインド社は、大麻や大麻抽出エキスによる治療、回復効果や娯楽体験の向上を促進するためにアスリートを広告モデルに起用しています。
カインド社、エンデューロ社からサポートを受けるシクロクロス選手ティール・ステットソン・リーは、大麻企業から後援を受けるアメリカ初のプロ競輪選手の一人となりました。彼女はその役目を軽視していません。
「薬物に関する会話を始めるのはいくらか暗いブラックホールのように感じます。特に自転車競技界が重大なスキャンダルに悩まされたのはそれほど昔のことではありませんから」
「大麻に関する対話は重要だと思います。さまざまな州で娯楽用大麻の合法化されたことは、大麻がこれからも私たちと共にあるという事実を実証しています。したがって、私たちは文化として大麻に関する対話のさまざまな側面を掘り下げていく必要があります。大麻を違法にすることで、不都合なことは目に入らないようにして無かったことにするというは、適切なアプローチではありません」
大麻と自転車競技について聞かれたときも、ステットソン・リーの回答は明瞭でした。全てのカンナビノイドの医療使用および娯楽使用を支持してステットソン・リーはこう述べました。
「自転車競技と大麻は相性がいいです。ですから合法であるべきです」
彼女は積極的な大麻の支持者であり使用者でもありますが、プロ選手としては競技の規則を忠実に守るように注意しています。
「エンデュロレース開催期間は、まだ薬物検査を課されていませんでした。ですから、エンデューロの期間は医療目的や娯楽目的で大麻を使用することに関してあまり心配する必要はありませんでした。でもシクロクロスでは、今シーズンはUCI検査があるので、規則を守れるように大麻を摂取しないようにします。規則が変わるまでは」
WADAが CBDを禁止薬物リストから除外したのは正しい方向への一歩だ、と彼女は言います。
「大麻は議論を巻き起こしますが、いつでも誰とでも私はこの件について話せます。今アメリカでは極度にオピオイド中毒が蔓延し、アスリートたちはこれまで大麻よりもずっと有害で長期的な影響を及ぼすような薬で、自らを治療してきましたから」
「鎮痛や慢性疾患のために店頭で購入できる薬は多種多様ですが、これらすべてが長期的な使用によって肝臓や腸に損傷を与えることが実証されています。よりダメージ効果の少ない代替薬を人々が使用できるように、実行可能な選択肢を提供するのに頭を悩ませる必要はありません」
娯楽薬物としての大麻
ステットソン・リーがさらに怒りを感じるのは、大麻の汚名にまつわる偽善です。THCを含む大麻派生物は、精神状態を変化させるので娯楽薬物として人気です。アルコールと同じように、恍惚感やリラックス効果を感じたり、時には幻覚を見たりすることがあります。
「アルコールは文化的に受け入れられた娯楽物質で、さまざまな目的で自己治療するために使用されています。アルコールに薬効はないにもかかわらず、人々はアルコールを使用して、冷たい目で見られることなく精神状態を変化させることができるのです」
大麻に関する一般大衆の認識は変わり始めたばかりですが、完全な文化的変化が起こるまでにはあと5〜10年かかるでしょう。特にスポーツ界では長くかかるだろう、と彼女は推測します。
「大麻に関する認識の変化は医療面から進んでいます。その方が安全だからです。その方が人々も安心しますが、私の中の反抗心は『大麻は娯楽用でもあり、それでも問題なのだ』と言いたくなります。とはいえ、人々、特にプロスポーツ界がこの対話に入れるように、小さい一歩から始めなければなりません。アスリートたちが立ち上がって『私は大麻を使用して、こんなことに役立った』と表明することが大事です。そうすれば大麻に関する対話ももう少し標準化されます」
大麻とスポーツパフォーマンス
WADAは CBDはパフォーマンスを強化しない物質であると正式に認識しましたが、THCは厳しく禁止されたままです。WADAの批准機関である米国アンチドーピング機構(USADA)は、ウェブサイトで次のように説明しています。
「大麻は筋弛緩を引き起こし、トレーニング後の回復における痛みを軽減します。また不安や緊張を抑制するので、結果としてプレッシャー下のより良いスポーツパフォーマンスをもたらす可能性があります。さらに大麻は集中力や危険な行動を増加させ、スポーツにおける過去の失敗または怪我を忘れさせたり、恐怖を押しのけさせたりすることがあります」
それに加え、大麻は現実的および潜在的な健康上のリスクをもたらします。
「大麻の使用がさまざまな健康上のリスクをもたらす可能性は、数多くの研究で示されています。リスクには、呼吸器系、循環器系、メンタルヘルスに対する悪影響が含まれます。頻繁に大麻を喫煙する人は、より頻繁な急性胸部疾患や肺感染症のリスク増加などを含む呼吸器障害を体験することがあります」とUSADAは主張します。
最後にスポーツマンシップに関する懸念が記載されています。
「大麻の使用は、スポーツ精神の侵害です。スポーツ内またスポーツ界の外に含まれる負値および倫理がこの基準において考慮されます。大半の国で大麻は違法であるという性質のため、大麻の使用または乱用は、スポーツ精神を守る倫理および道徳的判断を示すものではありません」
ステットソン・リーは、大麻使用による競技中の潜在的な判断リスクは認めるが、パフォーマンス強化の部分は滑稽だと言いました。
「私が参加する競技においては、競技前の精神活性化が利益をもたらすとは全く思いません。大麻は確かに精神変性物質なので、即時の反応や集中力、応答性といった能力に影響を与えます」
「走りに出る前に外の世界とつながる方法として大麻を使用する人はいますが、競技においてはそれがパフォーマンスを強化するとは全く思いません」
スポンサーシップを通じた大麻の汚名挽回
スポーツ界内外の運営組織が合法性に取り組む一方で、若い大麻産業が急成長しています。娯楽用大麻が合法化された州では、膨大な税収入や雇用創出、新たな収益から大幅な経済的利益が報告されています。アメリカ自転車チームにとって、新たな産業は新たな資金調達の可能性を意味します。
オレゴン州メッドフォードの大麻企業グロウン・ローグ社は、自転車チームの冠スポンサーとなった最初の大麻ブランドです。
オリンピア・ビール・サイクリングとして知られていたオレゴン州ポートランドを拠点とする自転車チームが、次期シーズンにグロウン・ローグの名前を背負います。その過程で大麻使用の汚名払拭を願っています。チーム・オーナーのデイヴ・アルダースベイスは誇らしげにこう話しました。
「私たちは大麻製造業社が冠スポンサーとなった初めての自転車レースチームです。大麻は、オレゴン州ならびに太平洋岸北西部全体にとって経済的な原動力です。この変わりゆく情勢の一部となれるのはワクワクすることです」
太平洋岸北西部の競輪シーンにおける有名なチームは、男女両方のプログラムに育成およびエリート部門があり、これまでに複数のプロ選手を育成してきました。アルダースベイスがグロウン・ローグに就職したとき、他にはない可能性を見つけました。
「ブランド戦略という視点から見れば、これは興奮する出来事です。他に誰もやったことのないことですから。大麻業界に確立されたブランドはまだそう多くはありません。業界全体がまだ未熟で、コカコーラやクリネックスのような有名ブランドはまだありません。ブランドを宣伝するのは私の仕事の一部です。自転車チームは広告板を掲げることの延長線上にあります」
アルダースベイスはもちろん大麻の合法性や汚名と自転車に関してはよく分かっており、選手たちが十分な情報や論点を備えていることを保証しました。
「私たちは大麻を宣伝しますが、それを健康的で活発なライフスタイルを通じて最も責任のある形で行います。また人々がそれを責任を持って楽しめるようにしたいのです」
さらにアルダースベイスは全ての選手が大麻を使用しているのではなく、競技の規則は守られることを明言しました。
「私たちが選手に役立つ鎮痛やリラクゼーション目的の大麻の代弁者になれるとしたら、それは素晴らしいことです。大麻に関する汚名払拭の一環です。人々は 責任を持って大麻を使用しています、それはもう止められません。統計学上なことを言えば、大麻はその他娯楽薬物よりもずっと安全です」
フロイド・ランディスも賛同しています。
「グロウン・ローグ・サイクリングは、大麻市場の実現可能性の延長線上にあり、数十年間続いた大麻の悪イメージを経て、アスリートや彼らを後援する企業を含めた人々の態度が変わりつつあることの証です」
結局のところ、自転車チームのジャージに一つロゴが加わるに過ぎません。アルダースベイスは言います。
「売り上げの観点から言えば、認知度と販売促進の製品が増えただけです。自転車チームのスポンサーには、スポーツとは関係のない変わった企業がたくさんありますから」
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大麻ブランドがスポーツ選手のスポンサーになるとは、なんとも斬新に感じますが、それと同時に新しい時代の到来も感じさせますね。記事にもある通り、2018年にはWADAの禁止薬物からCBDが除外されますから、この傾向が続けば、CBDブランドがアスリートのスポンサーになる、なんてことも増えていくかもしれません。2020年に東京オリンピックが開催される頃には、そういう選手が出始めるかもしれない、と思うと、楽しみがまた一つ増えますね。

参考:CyclingTips