現在の薬物政策に疑問を投げかける覆面捜査官の訴え

イギリスで薬物戦争の第一線で戦ってきた覆面捜査官による回想録が出版され、話題を呼んでいます。本記事では、23年間警官を務めたニール・ウッズについて海外の記事を紹介します。

命がけの任務で得た洞察力

法に人生を捧げるというのはどういうことか考えたことはありますか?提示された規則に従い、示された争いで戦い、“薬物戦争”の最前線で戦う重要人物だとみなされるのはどういうことでしょうか?そしてその後、自分が良くしたいと願っていた全てのことをダメにすることにおいて、自分がキャリアの間ずっと知らずに重要な役割を果たしていたのに気づいていく恐ろしさを想像して見てください。

さらに恐ろしいことに、薬物戦争に勝つために戦ってきた人生は、コミュニティに重くのしかかっている混沌を悪化させただけだったとしたら?それを想像してみてから、この悪の戦争で戦う良い警官ニール・ウッズの体験を読んでみてください。

23年間警官を務めてきたニール・ウッズは、薬物依存症である人を演じて14回覆面捜査を行いました。彼は今、これまでの国際的薬物法の大失敗に関する認識を高め、また依存問題を抱える人を処罰するのではなく医学に基づいた介入、ケア、敬意を持って対処するべきだと提唱することに人生を捧げています。

ニール・ウッズは覆面捜査官の視点から薬物法改正の必要性について対話を始めることを願って、回想録「良い警官、悪い戦争」を出版しました。

筆者が最初にニール・ウッズに会ったのは薬物法改正会議でのことでした。私がスピーチをしているのを見ている覆面薬物捜査官がいるのを知っていたので、それが誰なのか見つけようと観客を見渡しました。どんな性格の人が、ギャングへ侵入し、困難な道を歩み、ギャングを逮捕するために自らのアイデンティティを失うキャリアを選ぶでしょうか?

ニールが自己紹介するために歩み寄ってきたとき、私は驚きました。想像していたお話に出てくるような警官とは大きく異なり、ニールは物静かで明らかに謙虚な人物でした。ニールには控えめな魅力があり、非常に明白に知識を備えていました。また彼は、罪滅ぼしとも言える旅路を始めたがっていました。私は、ニールの物語が自由な陰謀やのぞき見と言えるくらい興味をそそられるものだということに気づいていました。

ニールの寓話が世に知られるべきだというのは明らかでした。そしてコミュニティの関心グループやメディアがニールの体験に興味を持つまで長くはかかりませんでした。文化的な観点から、私たちは「ザ・ワイヤー」や「トレインスポッティング」「ブレイキング・バッド」といったフィクション作品に見られるドラッグや重複する文化に熱狂しがちですが、現実はドラマと異なるのでしょうか?

命がけの任務で得た洞察力

ニールが路上で過ごしたキャリアの中で、全て薬物法の秩序を保つという名の下にニールは殴り合い、刺し合いを目撃し、ナイフを喉元に当てられ、ほぼ毎日危険に直面していました。これは訓練を受けてできるタイプの仕事ではありません。まさに“現場で”という定義がぴったりの仕事であり、1つミスを犯せばそれが最後になりかねないものです。警察の汚職というタブーは言うまでもありません。お金があるところには汚職があります。年間約3200億ドルの国際取引があることを考えると、薬物を販売して得られたお金がどれほど社会の隅々まで充満しているか容易に想像できます。

薬物戦争の第一線にいたことから前例のない洞察力を得たニールは、薬物の使用の90%は全く問題のないものであると言う国連もまた認識している事実、そしてそれでもなお一部の薬物を使用する人々に対して私達が警棒を振りかざそうとしている現実を実際に目撃しました。イギリスの納税者に対して年間約70億ポンドの費用がかかっている問題解決のための薬物の犯罪化は、懲罰的な取り締まりによって状態を悪化させているのです。

ヘロインなどの薬物を使用する人について深い理解を持ったニールは、問題が生じるようなやり方で薬物を使用する人はほぼ全ての事例で、人生におけるなんらかのトラウマによってそのようにしているのだと言うことを熟知しています。だからこそニールは今、警察の仲間で構成される機関である“禁止に対抗する警察”(LEAP UK)の議長を務めています。ニールとLEAPの仲間は膨大な経験を利用して、思いやりをもって、ジャッジせずに薬物使用者を扱います。また彼は、スイスのヘロイン・アシステッド・セラピーのような維持療法の提唱者でもあります。このスイスのセラピーは、ヘロイン使用者による断薬成功率が80%であるだけでなく、おそらくさらに重要なことに使用者が自分の使用の管理をできるように十分に敬意をもち、安全な供給品や清潔な注射針、受け入れ態勢の環境を提供しています。社会全体にそれによって恩恵を得ています。窃盗などの強欲な犯罪は同様の取り組みによって93% も減少しました。

最初から最後まで非常に正直書かれたニールの回想録の中で際立っていた文章の一つで、ニールは次のように述べていました。

「薬物カルテルの戦いを知っています。その戦いのために人生を危機にさらしましたから。そうしてこの件について発言する権利を得ました」

全くその通りで議論の余地もありません。

組織犯罪はしばし警察の戦術に対する回答です。失望させるような不吉な結果が、コミュニティにおける恐怖の増大です。いずれにせよ私たちは皆、現在の薬物法に影響を受けています。ニールの回想録「良い警察、悪い戦争」は、警察ドラマに期待されるような全ての危険や諜報だらけの非常に面白いスリラー小説のように読めますが、これは一歩外を出たら存在する実際の生活のことなのです。

薬物戦争のために戦った人物が歩み出て、思いやり、良識のある証拠に基づいた法改正のために現在の政策を終わらせることに人生を捧げる時、それに耳を傾けなかったとしたら愚かでしょう。まして行動しなかったら馬鹿者でしょう。

出典:virgin