メカニズムを知る:神経伝達システムとカンナビノイド

生体内のカンナビノイド受容体と内因性カンナビノイドは、それらが存在することが判明し、その産出経路もある程度明らかになってきたが、次の謎は体内(主に脳)でどのように働くのかということであった。

2001年にカルフォルニア大学サンフランシスコ校のロジャー・ニコルと金沢大学医学部狩野方伸教授(現・東京大学大学院医学研究科教授)は、それぞれ同時期に内因性カンナビノイドが脳内の逆行性シナプス伝達を担っていることを明らかにした。

一般的なシナプス伝達は、細胞体で発生した活動電位(電気信号)が軸索を伝わって神経終末へ着き、シナプス小胞に蓄えられた新家伝達物質がシナプスの隙間に放出され、いったん化学的信号に変換されたのち、シナプス後部神経細胞の神経伝達物質受容体に結合して、内因性カンナビノイドは、シナプス後部からシナプス前部への逆行性のシグナルの担い手として働いている。

このことは、シナプス伝達においてシナプス前部から後部へと一方向に流れるという、長い間信じられてきた定説を覆し、逆向きに流れることを世界に先駆けて発表したのである。この発見によって、シナプス伝達に順行性と逆行性という2つの言葉が生まれた。

逆行性シナプス伝達のメカニズムは、細胞内のカルシウム濃度の上昇もしくはGタンパク質共役型受容体の活性化によって、内因性カンナビノイドが産出されて細胞外へ放出され、シナプス前終末にあるCB1受容体を介して、神経伝達物質の放出と抑制するというものである。

この内因性カンナビノイドは一過性のものだけでなく、長期間(数時間から数日)に及ぶシナプスにおける情報の伝わりやすさ(伝達効率)の低下が明らかになっている。一般的にシナプスの情報伝達効率の変化が記憶や運動学習の基礎になっていると考えられており、海馬の空間学習、扁桃体での恐怖条件づけ、小脳での瞬目反射条件づけにCB1受容体の活性化が必須と報告されている。

マウスやラットの行動分析から内因性カンナビノイドは、記憶・学習・不安、抑うつ・薬物依存・食欲・疼痛といった様々な脳機能に関与することが明らかになっている。

内因性カンナビノイドは脂質メディエーター

脂質は、私たちの体にとって生命維持に必須の物質である。脂質は、一般的に炭水化物、タンパク質、脂質の3大栄養素の1つで、細胞膜を構成する壁としての役割であることが知られている。脂質メディエーターとは、細胞内外の譲歩王伝達を司る生理活性物質であり、局所で一過性に産出され、その場で細胞膜受容体に作用してシグナルを伝え、速やかに分解される脂溶物質のことである。

パッと作られ、パッと分解するのが特徴である。脂質メディエーターの生合成や分解に関わる酵素、脂質メディエーターが作用する受容体の研究が進み、私たちの体の調整機能のすばらしい働きが明らかになりつつある。

内因性カンナビノイドは、アナンダミドと2-AGが有名だが、現在では同じような働きをすると考えられている物質が後8種類あって全部で10種類ある。それらの内因性カンナビノイドは、CB1とCB2のカンナビノイド受容体以外にも痛み、炎症、体温の調整を担い唐辛子の辛味成分カプサイシンに作用するバニロイド受容体(TRPV1)、細胞内タンパク質の1つで核内受容体のペルオキシソーム増殖因子応答性受容体(PPAR)、第三のカンナビノイド受容体とも言われているGPR55、そしてGPR119とそれぞれに作用している。

そして、この脂質メディエーターはオメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸に分かれている。オメガ6とオメガ3と言えば、麻の種子から採れるヘンプシードオイルは、必須脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸が世界保健機構(WHO)や厚生労働省が理想とする比率に近い3対1で含まれている。

ヘンプシードオイルを摂取するとエンド・カンナビノイド・システム(ECS)を正常に働かせることができるのである。

最近の研究では、花や葉に含まれている植物性カンナビノイドを摂取しなくても、種子から採れるヘンプシードオイルでもエンド・カンナビノイド・システムへアプローチできることがわかってきた。

1つの例として、日本の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の研究によると、動物実験でオメガ3とオメガ6の脂肪酸の摂取バランスが恐怖体験に基づいて形成される記憶の強さをコントロールすることを見出し、さらにその脳内メカニズムを明らかにしたと発表している、魚脂のDHAやEPA、植物脂ではヘンプシードオイルや亜麻仁油がエンド・カンナビノイド・システムのはらたきを強めるのである。

神経回路とシナプスを解明するべき研究者たちの動画があるのでご紹介します。
動画では神経回路やシナプスなどの構造や働きなどをわかりやすく見ることができます。