幸いなことに私も私の近親もこれまでのところがんとは無縁です。しかし友人のアナはそれほど幸運ではありませんでした。アナの母は膵臓がんを患い、何度か化学療法を行った後は80歳の誕生日までギリギリの状態で生きていました。それでも彼女は死にたがっていました。モルヒネの投与量が増えて混乱し、痛みにさいなまれ、食欲も無ければ、眠ることもできなかったのです。
医療大麻がもたらす効果
ベルギーに住んでいた家族の若く視野の広い医師が、苦しむ患者に医療大麻オイルを処方できる法の抜け穴を見つけました。THCとCBDを両方含む全草大麻オイルを数滴舌に垂らすと、オピオイドが薄れ始めました。実際、モルヒネを止めた後の彼女は、死の瞬間まで完全に頭が冴えていました。痛みは緩和され、家族と笑ったり冗談を言ったりすることもでき、亡くなるまでの日々を安らかな尊厳をもって生きることができたのです。これは医療大麻を摂取する機会が無ければ得られなかったことです。
私は以前にも大麻ががんを治せるか、というテーマで記事を書きました。医療大麻投薬のおかげで今がんが無くなった、と話す人は数多くいます。しかし、誰もがそれを盲信できるわけではありません。今も多くの人が、手術や化学療法、放射線治療を用いた従来のがん治療を選んでいます。とはいえ、この2つを別にする必要はありません。ますます多くの人が、医療大麻をがん治療への補助として注目し始めています。
それでは、 従来のがん治療を補完する医療大麻の用途を見ていきましょう。
1. 吐き気・嘔吐を抑制
化学療法を受ける患者に共通する体験は、強烈な吐き気や嘔吐です。ジェフ・モロソは結腸がんのために12回の化学療法に耐えました。ニュースウィークに対するインタビューでジェフは、副作用に対処するために複数の薬を処方されていたにもかかわらず、どれほど化学療法が耐え難いものだったか説明しました。「すごく気持ちが悪くて、横になって耐えるほか何もできませんでした」とジェフ。そこで彼は大麻を求めました。劇的な改善が起こり、7回目の化学療法の頃までには他の処方薬を止めることができました。
サンフランシスコ総合病院のがん専門医ドナルド・I・アブラムスは、大麻草の吐き気・嘔吐を抑制する力を確信しています。アブラムスの論文『臨床がん治療と大麻を統合』では次のように述べています。「ペニシリンは抗生物質であることを実証するプラセボ対照試験が必要なのと同じくらい、大麻は有効な制吐剤であることを実証する臨床試験が必要なんだ、と頻繁に主張してきました」
全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所の衛星および医学課による大麻の効果に関する最新の検討では、化学療法によって生じる吐き気・嘔吐人は、一部の経口カンナビノイドが症状の予防において良好な結果を示す「決定滴な証拠」がある健康状態の一つだ、としています。
THCをベースにした薬ナビロン(セサメット)および合成カンナビノイド薬のマリノール(ドロビナール)は、アメリカを含む一部の国で、他の薬が効かなかったとき化学療法による吐き気・嘔吐に対して処方されています。医療大麻が合法化された国や一部の州では、化学療法による吐き気は一般的な指定疾患です。
2. 食欲増進
ジョイントを吸ったことがある人なら、ジャンクフードを食べたい制御不可能な欲求を感じたことがあるでしょう。これは、ほとんどの娯楽用大麻に豊富に含まれているカンナビノイドTHCが、私たちは実は空腹である(通常そうではなくても)ことを脳に確信させるからです。したがって、化学療法によって食欲が減退した、またはがんの末期にある人々にこのカンナビノイドが同じ効果をもたらすと考えるのはそれほど難しいことではありません。
アナルズ・オブ・オンコロジー誌に発表された研究では、THCを与えられた進行がん患者の64%に食欲の改善が見られ、73%が食べ物に対する深い感謝を報告しました。また、睡眠の質の改善も報告されました。しかし、がん患者の90%が体験する悪液質として知られる深刻な体重減少にTHCが効くことを証明する証拠はまだありません。
3. がん関連の痛みを緩和
マヨ・クリニックによると、がん治療を受ける患者の3人に1人は痛みを感じており、がんが進行するとその数も多くなります。これは、がんが腫瘍付近の組織を破壊すること、または周りの神経、骨、臓器を圧迫することによるものです。また、がん治療自体が痛みをもたらすこともあります。化学療法は時に神経損傷を引き起こします。
患者は通常、鎮痛剤を処方されます。より痛みが強烈な場合は、モルヒネなどオピオイド系薬剤を処方されることもあります。
しかしがん専門医のドナルド・I・アブラムス医学士にとって、モルヒネやその種の鎮痛剤はがん患者にから生活の質を奪ってしまうことがあります。「現代腫瘍学」に発表した自らの論文のなかで、アブラムス医師は友人の母の体験と同じことを述べています。
「死が近くなり、善意を持った医師または緩和ケアチームから高用量のオピオイド系を投与されている患者は、認識力が変化してしまうために、最期の大切な時間のなかで愛する人々と全くコミュニケーションが取れないことがよくあります。多くの人が大麻を投与計画に追加することでオピオイド系薬を断つことに成功しています」THCの鎮痛特性にもかかわらず「CBDが豊富な大麻株から大幅な鎮痛を得たという報告がよくある」とアブラムス医師は述べています。
しかし臨床研究による確かな結果となると、結論はまだ出ていません。一般的ながんの痛みにおける大麻製剤の使用に関する研究が有望な結果を示す一方で、弱点が化学療法によって起こる神経障害を改善しているようです。これまで、化学療法によって起こる神経障害を持つ患者に対してTHC/CBD薬剤サティベックスを検査する臨床試験はたった1回しか行われていません。その臨床試験では、サティベックスとプラセボの間に全体的な違いは報告されませんでした。
4. 不安感情を軽減
恐怖、絶望、不安などの感情はがん患者に共通するものです。「がん診断後の不安障害とうつ病」と題された2012年の研究では、41.6%の患者が不安を感じ、29.4%がうつ状態を感じることが分かりました。
不安障害またはうつ病を治療する際、使用するのが大麻など植物系薬剤であろうと製剤であろうと、可能であればなんらかの心理療法と組み合わせるべきです。心理療法は、がんサポート団体によって提供されていることが多いです。
しかし、不安感情を緩和する手段として、カンナビノイドCBDは特に有効であることを、研究が示しています。なぜならCBDは、気分および不安障害に深く関わる5HT1-Aセロトニン受容体を部分的に活性化するからです。そればかりか、身体に元々備わる気分高揚化学物質アナンドアミドを分解させる要因である酵素を抑制するCBDの特性もまた、不安緩和を助けると考えられています。
5. 脳腫瘍患者の平均寿命を伸ばす
イギリスのバイオ製薬会社GWファーマは最近、侵攻型脳腫瘍である多形性膠芽腫(GBM)患者に投与される化学療法薬の一種テモゾロミドと大麻系薬剤サティベックス(ナビキシモルス)の組み合わせが成功した、と主張する報告書を発表しました。化学療法のみを受けた患者の1年生存率は53%であったのと比較して、サティベックスとテモゾロミド両方を投与された患者の1年生存率は83%でした。
これらの結果は一種のがん、ならびに特定の化学療法タイプにのみ適用するものですが、研究の検査主任で、聖ジェイムズ大学病院リードがん・病理学機関の臨床がんおよび神経腫瘍学教授のスーザン・ショート博士はこの結果を有望だと考えています。ショート博士は次のように話しています。「これらの有望な結果は、THC:CBD製品が従来の腫瘍薬と異なること、また神経腫瘍治療の将来において優れた、そしてあるいは相乗的な選択肢を提供する可能性が持つ薬理学として特に興味深いものです」
がんの診断は非常に個人的な体験です。がんに立ち向かうために人々が取る選択肢について、批判できる権利は誰も持っていません。大麻はがんを治療する聖杯なのでしょうか?一部の人はそう信じています。他の人にとって大麻は、治療をより耐えられるものにするための実践的な方法です。そして、大麻の抗酸化特性や数多くのがん細胞を殺す潜在能力を考えれば、大麻はがんをやっつける可能性を増大させてくれるのかもしれません。
