●西洋医学だけでは満たされない患者にニーズ
●国が野放しにしてきたため、大抵は有害無益
●主治医に言えないようなものは、やめた方がよい
有効性・安全性はピンからキリまで
代替療法とは「現時点では西洋医学的に有用性が証明されていないため、標準的治療として認められていない治療法」です。難しく書きましたが、簡単に言えば、今のところ、エビデンス(有用である証拠)がない治療法のこと。正式には「補完代替医療」と呼ばれます。ここでは代替療法と呼ぶことにします。
代替療法の存在理由は、現在の西洋医学がすべての患者さんに満足される治療を提供できていない現実にあります。
実際、我が国のがん患者の2人に1人が代替療法を利用しています。ただ、その内訳としては健康食品やサプリメントが圧倒的に多く、それによって延命や奇跡の生還を期待する人が大多数です。
一方、欧米では国が専門機関を設立して様々な代替療法に関する情報収集や研究を行い、その結果、一部は私的な医療保険でカバーされています。また、欧米のがん患者では祈りや宗教的な癒しなどを治療に用いる人が多く、健康食品やサプリメントに大金を使う人は少数と報告されています。まさに日本とは対照的です。
特に米国では、実態調査に基づき、政府が出資して国立健康研究所(NIH)の中に研究部門を創設し、代替療法の研究と普及を行ってきました。代替療法による全人的なサポートは患者のためにも医療費抑制のためにも効果的と判断されてからです。
我が国では、漢方薬や鍼灸などの一部には健康保険が適用され、これらは代替療法ではなく正規の医療と位置づけられています。しかし、それ以外の様々な代替療法に関して、国がこれまで野放しにしてきました。そのため医師に匙を投げられた患者は、がんのバイブル本やインターネットで救われる方法を探し回った挙句、えてして無益な健康食品やサプリメントに大金をつぎ込むことになるのです。横行する詐欺やボッタクリに引っかかるケースも珍しくありません。政府が正面から取り組んでこなかったために、被害に遭う人が後を絶たないのです。
これまでのところ、ほとんどの代替療法にには医学的に有効という証拠はありません。漢方薬は医療現場でその効果が認められていますが、サプリメントの多くは、名前はよく知れれてはいても、科学的検討で有効性を否定されてものが多いです。
大抵は、正しい情報と十分な知識がないままに、販売業者の言うことを盲信して代替療法を用いています。しかも、多くの場合、主治医に内緒で代替療法を受けているのが現状です。
代替療法を用いるか否かは、患者自身が決めることですが、実際にはネット上に溢れる大量の情報に洗脳され、あるいは友人などからの無責任な勧めにも左右されます。
そこで、ご家族も含めて、様々な代替療法に関する情報を広く集め、その上で、自ら最善と考えられるものを選択するという心構えが重要です。
米国では1997年に「医療へのアクセス法」が成立しました。主治医は、自分では治療できない患者に対し、本人が希望した場合、代替療法を含むしかるべき医師や治療師に紹介する義務を負う、という法律です。日本でもこのような法律が制定されれば、患者を見捨てることなく、最後まで患者さんに寄り添った治療が行われ、「がん難民」は確実に減っていくはずです。
漢方医学で身体の様々な機能異常に対応
●治療の後遺症を緩和
●その多くに健康保険が使える
●主治医と充分に話し合って活用を
手術、抗がん剤、放射線などによるがん治療の副作用や後遺症に苦しむ患者さんが、「証」に合った漢方薬を飲むことで副作用が軽減し、後遺症が緩和されることも明らかになってきました。
西洋医学では、病名や症状に基づいて治療薬を決定します。しかし、病名が同じでも本来一人ひとり病態は異なりますし、同じ人でも体の状態は常に変化しています。そのため漢方医学では病名だけでなく、患者の体のバランスの崩れを総合的に評価して、タイプ分けして類型分類します。それが「証」です。
医師は患者の体の外から五感で診察し、投与した漢方薬に対する患者の反応に基づいて逐次修正を繰り返し、最適な治療薬を決定していきます。こうして証を決定する作業こそが漢方的診断なのです。そしてまた、証は投与すべき漢方薬の名前でもあります。
ただ、誤解されやすいのですが、漢方医学は「オーダーメイド」医療ではありません。患者ごとに生薬を組み合わせて一から新しい漢方薬をつくるわけではないからです。言うなれば、「セミレディメイド」医療でしょうか。例えば紳士服量販店では、上着もスラックスもあらかじめ様々なサイズと素材のものが用意されています。非常に多くの組み合わせが可能で、結果として体にピッタリ合った服を選択することができます。漢方医学も、既に生薬の組み合わせが厳格に規定された様々な漢方薬の中から、患者ごとにぴったりあったものを選択するのです。
ちなみに、最先端の西洋医学ではゲノム解析による「オーダーメイド」医療を目指しています。最近決定された人間の全遺伝子(ゲノム)配列の情報を元に、患者ごとにゲノム解析を行って、将来どんな病気にかかりやすいのか、どんな薬が有効か、どんな薬が副作用を起こすか、などが予測できると期待されています。
しかし、たとえ遺伝子配列が同じであっても、生活環境が違えば、人間の実際の状態(表現型といいます)を規定するタンパク質の現れ方は異なります。また逆に、遺伝子配列が異なっていても、表現型が同じ場合もあります。つまり、遺伝子ですべてが決まるわけではないのです。
そこに強みを持っているのが漢方医学とその治療方法というわけです。漢方は遺伝情報だけでは規定されない、身体の様々な機能異常に対応できるのです。
現在我が国では、漢方薬の多くは健康保険でカバーされ、保険診療の中で広く利用されています。医師に漢方薬を処方してもらえば、高価なサプリメントや健康食品を使わなくても、体力を維持し、免疫力を高めて、治療の効果を増強することができます。
例えば、大建中湯は、大腸の働きを促進し、大腸がんの手術後の腸閉塞を予防する効果が知られています。実際、大腸がんの手術を受けた患者を、大建中湯を使用した群と使用しなかった群に分けて比較すると、開腹手術後と腹腔鏡手術後のいずれでも、大建中湯投与群では入院期間が短くなりました。
しかし胃がん手術後の患者の場合は、大建中湯を服用すると吐き気が起きて食欲が低下し、ひどく痩せてしまうことがあります。抗がん剤治療を受けている患者が漢方薬を服用すると、食欲低下、全身倦怠感、体力低下などの症状が改善することもよくあります。
また、免疫力を高めるとされる「補剤」と呼ばれる漢方薬の投与により、がんの進行が穏やかになり、がんと共存する患者も多いのです。がん治療に漢方が有用であることは、近年の学会や論文でたびたび発表され、漢方は西洋医学の中で、少しずつ認知されるようになりました。
ただ、漢方の併用を好まない医師もいますから、まず担当医と十分話し合う必要があります。2001年から文部科学省による医学部教育の指針であるコアカリキュラムの中に「和漢薬を概説できること」という項目が盛り込まれ、現在ではほとんどの医科大学で漢方について教育されるようになりました。将来は漢方にアレルギーを持つ医師はすくなくなることでしょう。
なお、漢方薬でがんが治ることもないわけではありませんが、かなり稀な出来事です。一般的にまず西洋医学的な治療が基本になります。そこに漢方をうまく組み合わせると、治療効果が高まり治ることもあると考えてください。
いずれにしても漢方薬の効果は、医師の診断能力、患者の個人差、がんの悪性度など、様々な条件に左右されるため、一定ではありません。漢方薬に有効性を発揮させるためには、飲食物に注意し、生活習慣を改善、またストレスを回避し、神仏や先祖に感謝して信仰心を持つなど、多くの努力が必要となります。
