目次
- 1. 抗不安効果だけじゃない! CBDとセロトニン受容体
- 2. CBDの鎮痛効果に関わるバニロイド受容体
- 3. CBDの抗癌増殖効果に関わるGPR55
- 4. 癌や糖尿病にCBDが効果を示す可能性とPPARの関係
- 5. 抗がん効果から神経保護効果まで!再取り込み阻害剤としてのCBD
- 6. GABAのリラックス効果を強化!アロステリック・モジュレーターとしてのCBD
大麻の非精神活性成分であるカンナビジオール(CBD)は近年、科学者や医師の間で大きな関心を集めていますが、CBDが分子レベルでどのように治療効果を発揮するのかはまだ研究中です。カンナビジオールは複数の分子経路を通じて多くの効果を生み出す多面的な薬なのです。
CBDは2つのカンナビノイド受容体(CB1、CB2)のどちらにも結合親和性を持ちませんが、複数の非カンナビノイド受容体やイオンチャネルを活性化します。またさまざまな受容体非依存性チャネルを通じて作用します。例えば、内因性神経伝達物質(アナンダミドやアデノシンなど)の“再取り込み”を遅らせる、特定のGタンパク質受容体の結合作用を阻害するなどです。
本記事では、CBDがその治療効果をもたらす6つの作用メカニズムを解説しました。専門的な内容になりますが、CBDが人間の体に優れた効果をもたらすメカニズムについて理解を深められるので、ぜひご一読ください。
目次
1.抗不安効果だけじゃない! CBDとセロトニン受容体
ブラジル、サンパウロ大学およびロンドン、キング大学のホセ・アレクサンドル・クリッパとその同僚は、不安障害におけるCBDと神経相関について先駆的な研究を行いました。CBDは高濃度のとき、5-HT1A(ヒドロキシトリプタミン)セロトニン受容体を直接活性化するので、抗不安効果をもたらします。このGタンパク質共役受容体は、不安障害、依存症、食欲、睡眠、疼痛知覚、吐き気・嘔吐を含む(がこれに限定されない)広範な生物学的および神経学的プロセスに関わっています。
5-HT1Aは、神経伝達物質セロトニンによって活性化される5-HT受容体群の一種です。中枢神経系と末梢神経系の両方に分布する5-HT受容体はさまざまな化学的メッセージの細胞内カスケードを誘発し、メッセージの化学的内容に基づいて興奮反応または抑制反応を起こします。
大麻草に含まれるCBDの非加熱バージョンであるCBDA(カンナビジオール酸)も、5-HT1A受容体に対して強力な親和性を持ちます(CBDよりも強力です)。前臨床研究では、CBDAが嘔吐抑制特性を持つCBDまたはTHCよりも強力な制吐剤であることが示唆されています。
2.CBDの鎮痛効果に関わるバニロイド受容体
CBDは複数のイオンチャンネルと直接的に相互作用し、治療効果をもたらします。例えば、CBDはイオンチャンネルとしても機能するTRPV1受容体に結合します。TRPV1は疼痛知覚、炎症、体温を仲介することが知られています。
TRPVは「一過性受容器電位チャネルサブタイプV」の技術略語です。TRPV1は、広範な薬草の効果を仲介する複数のTRP(発音:トリップ)受容体変異体またはサブタイプの一つです。
科学者はTRPV1のことを、風味豊かなバニラビーンズにちなんで「バニロイド受容体」とも呼びます。バニラは、殺菌特性および鎮痛特性を持つエッセンシャルオイル、オイゲノールを含有しています。また血管の詰まりを解消するのにも役立ちます。バニラビーンズは歴史的に頭痛の民間療法として使用されてきました。
CBDはTRPV1に結合するので、疼痛知覚に作用することができます。
唐辛子に含まれる刺激化合物カプサイシンはTRVP1受容体を活性化します。内因性カンナビノイドのアナンダミドもTRPV1アゴニスト(作動物質)です。
3.CBDの抗がん増殖効果に関わるGPR55
カンナビジオールは5-HT1Aセロトニン受容体と複数のTRPVイオンチャンネルを直接活性化する一方で、CBDはGPR55として知られる別のGタンパク質共益受容体を阻害または不活性化するアンタゴニストとしても機能することを示す研究もあります。
GPR55が大きな受容体軍に属するかまだ分かっていないので、GPR55は「オーファン受容体」と呼ばれてきました。GPR55は脳に幅広く発現し、特に小脳に多く発現します。GPR55は血圧、骨密度など生理的家庭の調節に関わっています。
GPR55は、骨再吸収を促す破骨細胞機能を促進します。過剰なGPR55受容体のシグナル伝達は骨粗しょう症に関わっています。
上海の中国科学院の研究者による2010年の研究によると、GPR55は活性化されるとがん細胞増殖も促進します。
スウェーデン、ルンドで開かれた2010年国際カンナビノイド研究会議でアバディーン大学の科学者ルース・ロスが明らかにしたように、CBDはGPR55アンタゴニスト(拮抗薬)です。CBDはGPR55シグナル伝達を阻害することによって、骨再吸収およびがん細胞増殖を減弱させるよう作用する可能性があります。
4.がんや糖尿病にCBDが効果を示す可能性とPPARの関係
CBDは、細胞核の表面にあるPPARs(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体)を活性化することによって抗がん効果を発揮します。PPAR-ガンマとして知られる受容体の活性化は、抗増殖効果ならびに人間の肺がん細胞株における腫瘍退縮を誘導する能力を持ちます。PPAR-ガンマ活性化は、アルツハイマー病の発症に関連づけられる鍵分子アミロイドβ斑を分解させます。これは、PPAR-ガンマ・アゴニストであるカンナビジオールがアルツハイマー患者に対する有益な治療法となりうる理由の一つです。
PPAR受容体はエネルギー恒常性、脂質取り込み、インシュリン感受性、その他代謝機能に関わる遺伝子も調節します。その結果、糖尿病患者はCBDを豊富に取り入れた治療計画から恩恵を受けられる可能性があります。
5.抗がん効果から神経保護効果まで!再取り込み阻害剤としてのCBD
外因性の植物性化合物である CBDはどのように人間の細胞内に入り、核内受容体と結合するのでしょうか?CBDはまず、脂肪酸結合タンパク質(FABP)に乗って細胞膜を通過します。FABPはさまざまな脂質分子を細胞内部へ引き連れます。これら細胞内輸送分子は、テトラヒドロカンナビノール(THC)や脳内にある大麻のような分子であるエンドカンナビノイドのアナンダミドや2AGも細胞膜を通過させ、細胞内の複数の標的に届けます。CBDとTHCはどちらも、遺伝子発現やミトコンドリア活動を制御する細胞核表面の受容体を調節します。
またCBDは細胞核表面のPPARsを活性化することによって抗がん効果も発揮します。
カンナビジオールはFABPsの3つのタイプに強力な親和性を持ち、またCBDは同じ輸送分子を得るために脂肪酸であるエンドカンナビノイドと競合することが分かっています。アナンダミドは一度細胞内に入ると、自然な分子のライフサイクルの一環として代謝酵素であるFAAH(脂肪酸アミドヒドロラーゼ)によって分解されます。しかしCBDはアナンダミドのFABP輸送分子へのアクセスを減らし、細胞内へのエンドカンナビノイド通過を遅らせることによってこのプロセスを妨げます。
ストーニーブルック大学の科学者チームによると、CBDはアナンダミド再取り込みおよび分解阻害物質として機能するので、脳のシナプス内のエンドカンナビノイド量を増加させます。再取り込み阻害によるエンドカンナビノイド・トーンの増強は、CBDによる発作に対する神経保護効果やその他健康効果を起こす重要なメカニズムである可能性があります。
CBDの抗炎症および抗不安効果は、CBDによるアデノシン再取り込みの阻害に部分的に起因します。CBDはアデノシンという神経伝達物質の再取り込みを遅らせることによって、脳内のアデノシン値を強化します。これによってアデノシン受容体活動が制御されます。A1AおよびA2A受容体は心筋酸素消費量や冠血流を調節し、心血管機能に置いて重要な役割を果たします。これらの受容体は体全体に幅広く抗炎症効果をもたらします。
6.GABAのリラックス効果を強化!アロステリック・モジュレーターとしてのCBD
CBDはアロステリック受容体モジュレーターとしても機能します。すなわちCBDは、受容体の形を変えることによって受容体がシグナルを伝達する方法を強化または阻害することができる、ということです。
CBDがGABA-A受容体の「ポジティブ・アロステリック・モジュレーター」として作用することをオーストラリアの科学者が報告しています。言い換えればCBDは、主要な内因性アゴニストであるガンマアミノ酪酸(GABA)に対する受容体の結合親和性を強化する点でGABA-A受容体と相互作用します。GABAは哺乳類の中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質です。バリウムやベンゾジアゼピン系による鎮静効果はGABA受容体伝達が仲介しています。CBDは、GABAによる自然な落ち着き効果を強化する点で、GABA-A受容体の形を変えることによって不安を軽減するのです。
カナダの科学者はCBDを、脳および中枢神経系に集中しているカンナビノイドCB1受容体の「ネガティブ・アロステリック・モジュレーター」であると特定しています。カンナビジオールはTHCのように直接的にCB1受容体に結合しませんが、CBDはCB1のTHCと結合する力を弱める点でCB1とアロステリックに相互作用し、CB1受容体の形を変えます。
CBDはCB1受容体のネガティブ・アロステリック・モジュレーターとして、THCによる精神活性性の上限を下げます。だからTHCが優勢な大麻薬と比較して、CBDが豊富な大麻を使用するときにそれほど精神が活性化されないのです。THCが低濃度の高濃度CBD製品は、恍惚的または不快な効果を感じることなく、治療効果を発揮できます。
このようにCBDがもたらすさまざまな効果の背景にあるメカニズムは、すでに少しずつ科学的に解明されつつあります。もちろんまだ多くの研究が必要ではありますが、ただ「抗不安効果がある」と言われるよりも科学的なメカニズムを理解し、体の中でどんなことが起こっているのか分かった方が安心ですよね。CBDオイルを生活に取り入れる際の参考情報となれば幸いです。

参考:ProjectCBD