CBDを有名にしたグプタ医師が過熱するCBDブームに警笛を鳴らす

CBDブームの火付け役となったアメリカのドキュメンタリー番組『ウィード(原題:Weed)』をご存知でしょうか? 2013年にCBDオイルによって難治性てんかんの発作がゼロになった少女を取り上げた第1回が公開され、CBDの存在を世に知らしめた番組です。番組を指揮したのは神経科医のサンジェイ・グプタ医師。大きな注目を集めた番組はこれまで5回にわたって医療大麻を取り上げてきましたが、2019年に公開された第5回『ウィード5:CBD狂騒』では加熱しすぎたCBDブームの弊害について警笛を鳴らす内容になっています。番組の公開に際して、医療大麻について真実を追求し続けてきたグプタ医師が寄稿した文章を紹介します。

************************************************************************

CBDが世界を変えた

CNNで『ウィード』というドキュメンタリーが2013年に公開された頃、カンナビジオールやCBDという言葉を聞いたことがある人はほとんどいませんでした。しかし今や、アメリカ人の3分の2はこの化合物をよく知っており、7人に1人は試したことがあるという時代になりました。国民のほとんど全員、93%が医療大麻を支持し、産業用大麻由来のCBD(THCが0.3%以下のもの)が全ての州で合法化されました。

国民の認識が変わっただけではありません。科学もこの6年で大躍進を遂げました。医薬品として認可されているCBDオイルのエピディオレックスは、臨床試験を経て、発作を持つ何千人もの患者に処方されています。エピディオレックスのメーカーであるGWファーマ社の創業者は、現在、自閉症から不安障害に至るまで幅広い疾患を対象とした医療大麻の薬剤を開発中だと話しています。

『ウィード』で取り上げられた人々の人生も大きく変わりました。コロラド州のスタンレー兄弟は、6年前当時、農場の全てをCBDに賭けている状態で、まともな車一台買う余裕さえありませんでしたが、今では3州にわたって800エーカーもの土地でCBDを栽培しており、推定20億ドルもの価値がある大麻帝国の所有者となりました。

そして、シャーロット・フィギー。誕生して間もなく、シャーロットの発作は始まりました。3歳になる頃には、半ダース以上の薬を試したにも関わらず、一週間300回もの発作が出るようになっており、彼女の母親のペイジは、娘の呼吸がいつか止まってしまうんじゃないか、心停止してしまうんじゃないかと心配していました。シャーロットは8歳の誕生日を迎えることはできないだろうと思われていました。しかし今日、彼女は12歳になりますが、発作用の薬を飲まずとも、出る発作は月に2、3度だけになりました。彼女が服用している唯一のものはCBDオイルであり、その商品は「シャーロットウェブ」と名付けられています。彼女は今では、この植物だけで命を救われたという、数えきれない患者たちを代表する人物なのです。

多くの医療大麻コミュニティにとってこの数年というものは、いつか叶うとは到底信じられなかった夢が、本当に実現するのだということを気付かされる日々でした。ただし、夢には奇妙な部分もつきものです。それは美しいけれど、時に壊れやすく、今にも綻びだしてしまいそうな、そんなものでもあるのです。

以下では、医療大麻の厄介さや計画性の悪さ、そして不快とさえ言えるような側面を、見ていきたいと思います。

勇敢なる約束は乗っ取られた

2018年、一瞬のうちに、医療大麻の非精神活性成分であるCBD関連の法律は一気に変更されました。農業法が可決され、THCが0.3%以下の大麻はヘンプとして定義され、栽培、販売、消費が認められたのです。大麻コミュニティにとって、これはまるで、例えば干ばつの真っただ中で突然消火ホースから水を飲むような、そんな激変でした。何十年もタブーとしての汚名を着せられていたものが、商店の一角で買えるようになったのです。

店にはCBD入りのオイル、ミント、チーズバーガー、ビタミンウォーター、シャンプー、そしてスポーツウェアが並びます。こういったもののほとんどが、人間の身体に何か効果を与えるかというとそうではありません。医薬品として扱われたり、或いはサプリメントとしての販売規定が定められたりしなければ、CBDは不道徳な販売者によって、不良品や安全でない商品で乗っ取られてしまいます。そういった販売者らは、手っ取り早く儲けを得たら、痕跡も残さず天空に消えていってしまうのです。

医療雑誌JAMAの最新の調査で明らかになったことは、調査員が調べ分析した、31の会社から出ている84のCBD商品のうち、69%もの商品が偽装表示されていた、ということでした。非常に残念な結果です。商品の一部は全くCBDを含有しておらず、CBDが多く入りすぎているものや、THCが多く入りすぎているものもありました。

その他の調査では、CBD商品のうちいくつかは、全国で発生している病気の原因となっている、危険な合成化学物質を含んでいたことも分かりました。悲しいことに、自分たちのCBD商品が確かで、安全で、高品質なものだということを、きちんと時間をかけてチェックしている合法的な販売業者は、危険で不誠実な販売者と一緒くたにされ、消費者を混乱に陥れているのです。
CBD使用者からよく聞こえてきたCBDに対する一般的な心持ちは、「助けになるかもしれない。別に怪我するわけじゃなし、試してみようじゃないか」というものでした。しかし、特定のCBD商品の信頼性や安全性が保証できないのであれば、このような姿勢ではもういられないでしょう。

私たちが行った最新の調査『ウィード5:CBDの狂騒』では、違法の時代からCBDブームの加熱へと打ち上げられた医療大麻ロケット船に皆さんを乗せて、今日に至るまでどんな道のりを歩んできたかを明らかにする旅にお連れします。また、CBDの現在を見渡せるロードマップもご用意し、「分析証明書」の読み方や、何が合法で何が違法なのかをきちんと理解できるようお助けいたします。

信念ではなく、真実の物語を

最初に『ウィード』のドキュメンタリーを公開し、2013年に特集記事を組んだとき、幾人かは私が、医療大麻支持派になった、と言いました。それを聞いた時私は初め、身がすくみました。私や、ジャーナリストの友人たちや同僚たちにとって、「支持派」というのは、口にしてはならない汚い言葉と捉えられるときもあるのです。もちろん、支持派という態度は、大義を擁護するため必要となることもあるでしょう。そうでもなければほとんど誰にも耳を傾けてもらえないような時においては特に。しかし、一部の人にとって「支持派」というのは、客観性を欠いた、盲目的な信念というものを暗に意味するのです。それが『ウィード』で発露していたということなのでしょうか?

いくら強調してもし足りないと思うことが、一点あります。それは、医療大麻にまつわる物語は、いまだかつて誰に対しても、盲信を求めてなどいないということであり、それこそがこの物語の核心なのです。あなたは、医療大麻の問題について、ご自身が持っている客観性や懐疑的な態度を捨て去ることを求められてなど、いません。もしあなたが、さまざまな証拠を世界中からこつこつ集めて研究し、医療大麻の分子をしっかり理解するため研究所で日々を過ごし、そして医療大麻によって人生を生き永らえることのできた患者達のもとを訪れれば、きっとあなたも、そのことに気付くはずです。

医療大麻の真実の物語というのは常に、信念にではなく、真実に根差しているのです。

『ウィード』のドキュメンタリーシリーズで私は、よくよく見れば明白なこと、というものに光を当てたいと思いました。エコーチェンバー現象(※閉鎖的な空間の中でコミュニケーションが繰り返されていくことで、ある特定の信条や意見が増幅されたり増強されたりしていくこと)は科学の世界にも存在しています。こういったエコーチェンバー現象は、疑うことを放棄すると各世代においてどんどん増大していくのだということを、私は示したかったのです。あまりに長きにわたり、医療大麻の真実の物語はそういったエコーチェンバー現象によってかき消されてきました。

大麻は、「医療目的の使用は認められておらず、高い依存性をもつ」と前もって定められていました。しかし、それと正反対のことを示す沢山の証拠が出てきています。私たちは、何十年もの間この騒音によってかき消されてきた、反対側の声というものを聴いてほしかったのです。

科学に導いてもらおう

この6年の間、私は絶えず勉強し、研究者たちと最新の科学の進歩について討議し合い、何時間も患者たちと時を共にして、彼らが医薬品としての医療大麻をどう経験しているのか真に理解するため努めてきました。しかしながらその6年において、私の頭を悩ませるものがいつも傍らにありました。

というのも、CBDはあまりに便利な政治的言説となってしまう、ということであり、あまりにも簡単な、簡単すぎるほどの、隠れ蓑になってしまっているということです。

実際、CBDそのものだけでは使用者はハイになることはありません。喫煙する必要もありません。しかも、CBDによって最も救われた人々というのは、シャーロットのような小さな子どもたちなのです。ですが、それ以外にもお伝えしたいことはまだあります。そもそも『ウィード』はCBDのみではなく、ウィードすなわち大麻についてであり、何百もの治療効果の可能性を秘めた成分で構成される医療大麻についてなのです。勿論その中には、連邦政府によって違法な物質として、大麻の他の部分とともに「悪魔」のレッテルを貼られてしまったTHCも含まれています。しかしTHCにも薬理効果が示されているのです。

私たちは知恵の時代を生きながら、また同時に愚かさの時代を生きてもいます。私たちは医療大麻とともに長足の進歩を遂げてきました。しかし、私たちはまた、大麻が中傷され誤解されるものにしてしまった過去と同じあやまちも繰り返してきました。誇大広告やエコーチェンバー現象は、科学や明晰な思考の「親しい友」には、決して成り得ないのです。

どうぞ、間違いを犯すことのないように、医療大麻は医薬品であることを理解していただきたいです。これまでの6年、数えきれないほどの記事やエッセー、そして5本のドキュメンタリーにおいて私たちはその証拠を示し、それを主張してきました。時に、医療大麻は、他のどんな医薬品にも達成できなかったような治癒をもたらすことがあります。人々に対して大麻を与えないことが象徴するのは、医療の問題であると同様にモラルの問題でもあるのです。

私はいつも、科学と事実にこそ、導いてもらってきました。これは「支持する」というようなものではなく、権力に対し、真実を語っていく、ということです。ですが勿論、証拠もはっきりしていて、人々の命がそれにかかっているというのなら、屋上から叫び、医学会で大音量でトランペットを思い切り吹くように、世界中にそのことを知らしめるべきです。もし「支持派」という言葉が、あることについて忠実に学び、これまでの自分の認識を変えたり、これまでの自分が間違っていたことを認めたりする、そんな態度を意味するのならば、私は誇りを持って、その名誉あるバッジを身に着けようではないですか。

出典:CNN