米ヘンプ産業は成長モードに突入!多くの可能性を秘めるグリーンラッシュの実態とは?

2018年12月にヘンプが完全合法化されたアメリカでは今、ヘンプ産業が急成長を続けています。すでにCBDオイルの供給源として一部の州でヘンプの試験的栽培や使用が認められていましたが、今後は全面的に増加する見込みです。また技術面や環境にやさしい代替策としても多角的な注目を集めており、この世界的な流れから目を離せません。本記事ではアメリカでも有数のヘンプ生産高を誇るケンタッキー州を中心にグリーンラッシュの実態を見ていきます。

ケンタッキー州は高まるヘンプ需要を満たすのに最適な場所

ケンタッキー州では2014年に5つの農家が33エーカー(133,546㎡)を栽培していましたが、2018年には60人の農家、認可されている土地は2700エーカー(10,926,512㎡)にまで拡大しました。これは、東京ドーム約234.7333個分です。実際に、ケンタッキー州のヘンプ産業は長期に渡る不屈の根性と運動を経て急速な成功を成し遂げました。ケンタッキー州で急成長する多数のヘンプ生産者の1つ、アタロ・ホールディングス株式会社の企業関係管理者ジョー・ヒッキーは「私たちは26年を経て一晩にして成功を手に入れました」と笑います。

2018年12月にヘンプが新たに合法化されたため、ヘンプ耕作地は急激に増え、生産者と加工業者の数は100近くにのぼります。一方ビジネスの投資は一度に10億ドルに達します。

ヒッキーは前州知事ルイ・ナンと俳優ウッディ・ハレルソンと並ぶ、1990年代初頭のケンタッキー州における最初のヘンプ活動家の一人で、各地で増え続けるヘンプ活動家に道を開きました。彼らは今、ヘンプ生産に対するパラダイムシフトが達成されるのを目の当たりにしています。ケンタッキー州は自らをヘンプ生産における先駆者と位置付けており、世界のヘンプ中心地としての肩書を取り戻すことを望んでいます。

ヘンプ生産、研究や運動は2014年農業法案に項目7606、「産業ヘンプ研究の合法性」が含まれてから根をおろし始めました。この項目は、産業ヘンプをスケジュールI薬物である大麻と区別をし、ヘンプ栽培を合法化した州で高等教育機関や農業州庁が研究や試験プログラムを行うことを認可しました。駆け出しの農業関連産業部門はヘンプ生産を合法化した2018農業法案の通過により、さらに盛り上がっています。

医療用途、工事、車両製造原料や化粧品等に技術革新の焦点が当てられることで、新たなヘンプ産業がケンタッキー州の農家にとって信頼できる新しい収入を生み出すものになることが期待されています。2014年に生産が初許可されて以降、最近のケンタッキー州農家によると、利益はタバコ栽培と同等かそれより高くなっています。

2014年に14郡において33エーカーの農地、20人の認可栽培者、7つの大学プロジェクトと9人の加工業者でスタートしたケンタッキー州は近年、アメリカのヘンプ栽培における先導者になりました。2018年までに、73郡、作付面積6,700エーカー(認可されているのは16,100エーカー)、14大学による研究、72の加工業者と210人の栽培者にまで増加しました。ヘンプ栽培においてケンタッキー州と同等かそれ以上なのは、2017年時点で9,700エーカーで栽培していたコロラド州と3,467エーカーで栽培しているオレゴン州です。現在、一人当たりに対してはコロラド州がトップのヘンプ生産州ですが、ケンタッキー州は間違いなくコロラド州に対する競争力があります。

さまざまな分野で大きな利益が見込まれるヘンプ産業

ケンタッキー州ウィンチェスター市を拠点とするヘンプ由来CBD生産会社ジェンカンナ・グローバルUSAのスティーブ・ベヴァンは「私たちの提携農場は非常に興奮しています。私たちの12の農家は昨年収入として5億ドルを手にしました」と話します。2014年に創立されたジェンカンナ社は、2018年12月にヒックマン市に作る新たな多機能加工処理施設に4000万ドルの投資をすると発表し、80以上の雇用を生み出しました。このプロジェクトはヘンプ製品に対して増加する市場の需要と2018年の農業法案による支えによって促進させられたものです。ジェンカンナ社はヒックマンの施設が世界最大になることを期待しています。

施設はケンタッキー州西部の豊富な農耕地に加えてイリノイ州、ミズーリ州やテネシー州で栽培されるヘンプを受け取ります。「農民は害になるよりも治療に役立つものを栽培していて嬉しいと私に伝えてくれます」以前たばこ栽培をしていた農家を引き合いにだしてヒッキーは言いました。

ヘンプ生産の合法化は、すべての部位を収益を生み出す製品として使用することができること、最終製品に従って幅広い気候下で栽培できることから、二党の政治的サポートを引き寄せてきました。ヘンプは縮小するケンタッキー州農家の収入に対する潜在的な解決策、州が直面し始めている気候変動の不安に対する環境に優しい解決方法の両方になりえます。ヘンプ業界はどのヘンプ生産方法がケンタッキー州の栽培時期に一番適しているのか見つけ出そうとしています。

ヘンプ生産の60%以上がCBD製品に使われている

2014年に、ケンタッキー州農務省は栽培されたヘンプの47%は穀粒や種子、32%は繊維、21%はCBD製品向けであったという内訳を報告しました。2018年までにその数字は、18%が穀粒や種子、4%が繊維、61.5%がCBD製品に転じました。さらに、二重目的の栽培では、生産者の14%がヘンプを穀粒とCBD、2.5%が穀粒と線維のために栽培しています。

ほぼすべてのヘンプ草の部位が既に商品化されていますが、一方で多目的栽培に適した品種の開発に向けた取り組みがあります。二重生産はまだ効果的ではありませんが、業界が進化するにつれて多目的栽培可能な作物の開発はケンタッキー州にさらなる革新を生み出すと考えられています。

「CBDは初期の躍進力です。最初の1、2年という早い時期に利益が生み出される場所です」とヒッキーは述べました。CBDはヘンプに含まれる植物性カンナビノイドで、脳内で神経伝達物質放出を調整する細胞内のカンナビノイド受容体に作用します。CBDは子供の発作からパーキンソン病や湿疹の治療などあらゆることに役立つと言われています。

CBDは最も利益率の高いヘンプ成分であり、ケンタッキー州は最高品質カンナビノイドを栽培する地域として地位を確立しているとジェンカンナ社のベヴァンは言います。ジェンカンナ社はアメリカ全50州、12の欧州国、南アフリカ、南アメリカ、シンガポールと日本で販売するサプライチェーンを提供しています。
「アメリカ国内でヘンプにとって最高の場所はケンタッキー州です。高濃度CBDヘンプは多くのケンタッキー州農家にとって復興になり得ます」

世界で注目されるCBDオイルの医療効果

CBD製品の生産・販売を行うブルーグラスオイル社のオーナーの一人、エイドリアン・ポリニアクは夫と共に息子コルテンの特発性全身性てんかん(IGE)治療のためにCBDに興味を持ち始めました。

「コルテンは3歳の時に特発性全身性てんかんと診断され、一日数百回の発作を起こすようになりました。生活の質は完全に低下し、大変危険でした。私たちはある種薬学的ロシアンルーレットを経験することになりました。神経科医の一人は実際に「私たちはどの薬が効くのか分かりません。ただ試すようなことをするしかできないのです」と言いました。コルテンは体重増加、脱毛、体温調節不可能、激怒、食欲変化や臓器不全になりかけるなど、あらゆる種類の副作用を体験しました」

最終的にポリニアク夫婦は、CBDの健康的利益を調べた後に薬剤を捨て、完全なCBD療法を始めました。現在コルテンは発作もなく、薬も服用していません。

ヒッキーはパーキンソン病患者に対するCBDの治療的効果についても前向きです。「パーキンソン病を患う両親を持つ友人にCBDをあげました。震えていない両親を何年か振りに初めて見た友人は、泣いて喜んで私の元に戻って来ました」と彼は述べました。

ヘンプ合法化が本格的なCBD研究を後押しする

CBDの効果は主に事例的であるものの、その効果を示す実際の研究や早期証拠はあります。CBD研究への出資や研究は80年間禁止されてきたため、まとまっていません。支持者は慎重で、CBDチンキ剤や軟膏を薬剤としてではなく、サプリメントとして販売することを守り続けています。

2018農業法案はCBD研究を国中に広げることを期待されていますが、業界が追い付くにはまだまだやる事があります。2018農業法案が通過された後、アメリカ食品医薬品局(FDA)は次のように消費者や生産者に注意しました。「この新しい法律は、大麻(カンナビス・サティバ・エル)ならびに非常に低用量(乾燥重量基準で0.3%以下)の精神作用成分THCを含む大麻の派生物と定義される、ヘンプの生産と売買に関係する特定の連邦当局を変更するものです。この変更にはヘンプを規制薬物法から除外することも含まれ、ヘンプは連邦法の下でもはや違法薬物ではなくなることを意味します。FDAそして公衆衛生を保護・促進する事に対するFDAの責任にとって重要であることは、法律が変えなかったことです。すなわち、国会は連邦食品・医薬品・化粧品法と公衆衛生サービス法351項の下で大麻や大麻由来成分を含む製品を規制する当局の権威を明白に維持しました。そうすることにおいて、国会はFDAが規制する全ての製品に関して当局の重要な公衆衛生の役割を認識しました」

ブルーグラスオイル社のような生産者にとって、業界が発展するために THC0.3%濃度は重要です。また作物の破壊から農家を守り、CBD志向生産者にとって高利回りを保証するために、許容されるTHC濃度が1%に増えることを望んでいます。「2016年に、THC濃度が高過ぎるために作物を燃やされてしまった提携農家がいました。彼女の時間、血、汗と涙の価値は2万ドル分以上でした」とポリニアクは述べました。

比較して、国立薬物乱用研究所によるとTHC濃度は1990年初頭で大麻には3.7%以上、高濃度品種シンサミラには7.5%含まれていましたが、2013年には大麻に9.6%、シンサミラは16%まで増えています。CBDは肯定的な健康効果の結果を出している一方で、THCの効能における研究は否定的な健康効果が出ており、さまざまなカンナビノイド間における‘アントラージュ効果’として知られる相乗効果はまだあまり知られていません。

「CBD生産が軌道に乗るにつれて、規制と分類化はさらに徹底的になるでしょう。今現在、行政監督が全くないので、消費者は製品の表示が正確なのかどうかを知るすべがありません。製品に実際に何が入っているのかを理解するために何かしらの行政監督は適切だと多くの人々は同意すると思います」2014年以降ヘンプ栽培を研究しているケンタッキー大学農学者デイビッド・ウィリアムズはそう述べました。

最終的に選ばれるヘンプの用途は繊維生産になる可能性も

ウィリアムズは、最終目標としてヘンプ繊維生産の将来性について興奮しています。ケンタッキー州の緯度と湿潤気候を考慮に入れると、ヘンプ産業への新規参入者の流入によって高利益率のCBD市場が必然的に飽和状態になれば、ヘンプ繊維が最終的に栽培者にとって好まれる選択肢となるでしょう。ケンタッキー州は2018年これまででもっとも湿った天候を経験しましたが、そのような天候はCBD製品にとっては望ましくありません。繊維用の場合は非常に湿った状態を効率的に切り抜けられるので、農家にとって信頼性のある利益を提供できる、とウィリアムズは述べました。

「CBD市場は新しい生産者で飽和しているので、作物の種類を多様化する必要があるでしょう。そしてその時、ヘンプ繊維は素晴らしい代替作物です」繊維用ヘンプの栽培・維持は、より多くの世話を必要とするCBD品種と比べると農業的な持続可能性を証明するでしょう。ヘンプ繊維は紙と生地をはじめとして幅広い可能性を持っています。生産者は業界が近いうちにヘンプ繊維をプラスチックの代替品、コンクリートの材料、車の部品の原料として使い始めることを望んでいます。

一方で、ヘンプシードは既にスーパーフードとしてだけでなく飼料穀類としても販売されています。これは一部の生産者が穀類とCBDや穀類と線維と言った二重目的作物を栽培することを求める動機づけになります。

拡大する海外投資がさらなるヘンプ産業の成長を促す

ヘンプ製品生産高はケンタッキー州の経済発展に対して影響を与える相当の可能性を持っている一方で、ヘンプに関する技術的、種の遺伝的、機械的な革新も新たな成長を生み出す可能性を持っています。シンシアナ市にあるアナンダヘンプ農園を訪れる人々は機械的、工学的、化学的ヘンプ加工における成長の可能性を目にするでしょう。若い技術者や研究者がアナンダの器具やテスト製品を整備するなかで、大きなフローレンスフラスコがCBDを蒸留する機械と共に回転します。アナンダはヘンプ業界がどのように外部からの投資をケンタッキー州にもたらしたかを示す実例です。

アナンダヘンプの国際生産部長ブライアン・ファーニッシュはヘンプをケンタッキー州に取り入れるために上院法案50に働きかけた8代目農家です。アナンダの親会社は創立18年のオーストラリアの遺伝子開発会社、エコファイバー株式会社です。「この事業を始めて以来、私たちは3000万ドルの投資をオーストラリアから得て、国際的に活動しています。かなり良い投資です」

更なる国際的資金が引き続きケンタッキー州に長期に渡って投資される予定です。エコファイバー社のウェブサイトは、「ヘンプ業界はまだ発達の初期段階にいるので、私たちは研究と革新に大いに投資し、また長期的に持続可能なビジネスモデルに焦点を当てています」と明記しています。

アナンダヘンプの強みの一つは、エコファイバー社が収集・開発・整理した多くの種を利用できることです。アタロ社もまた、ケンタッキー州におけるヘンプの遺伝的多様性の先駆者として似たような位置付けをしています。「私たちはヘンプ草を先端から下部まで念密に研究します。産業ヘンプは長期間に渡って軽視されてきたので、取るに足らない遺伝資源しかありません。私たちはケンタッキー州の遺伝資源を再建するために素早く動いています」とアタロ社のウェブサイトは明記しています。

1930年代に違法となるまで、ケンタッキー州は世界のヘンプ首都であると主張していました。復興した産業が広がる今、種の遺伝子改変、開発や売買における改革の中心になるための経験を十分に積んでいるように見えます。ケンタッキー州を産業ヘンプの中心地にしたい現在の州農務省政策と政治的意思は、ケンタッキー州を始まったばかりのヘンプ市場で潜在的に優勢となると位置付けています。アメリカ共和党ジェームズ・カマー、ケンタッキー州農業委員ライアン・クォールズとアメリカ上院議員ミッチ・マコネールら政治家たちは皆、積極的にヘンプを支持し、アメリカ国内のヘンプ合法化のために法案を開発しました。

ケンタッキー州のヘンプ生産をめぐるパラダイムシフトについて、ヒッキーは次のように表現しました。「90年初頭における前知事ルイ・ナンと私たちと共同の活動によって全ては始まりました。その後、他の政治家が同調しはじめました」2018連邦農業法案にてヘンプを再認可するための法案を提出する際、マコネールは「農家は農業コミュニティを再び活性化し、アメリカ経済に新しい刺激を与えるヘンプの可能性に対する熱意を何度も分かち合ってくれました」と述べました。

ヘンプはケンタッキー州の莫大な金をもたらす次の作物になるでしょうか?決めるには早過ぎますが、何千万ドルとなる明敏なビジネス投資に裏付けされた確かに増大する期待はあります。

「もしケンタッキー州が馬、バーボンとバスケットボールで知られているのであれば、4番目はヘンプになって欲しいですね」―ジェンカンナ社ベヴァン氏