リック・トロージャン三世はコロラド州最大のヘンプ農場を共同所有し、食料品会社を運営するほか、ヘンプ・ロード・トリップを通じて農産物としてのヘンプの可能性を提唱しています。
ヘンプ・ロード・トリップは、全国のヘンプに関する関心を高めるために、トロージャンが2015年に設立した団体です。昨年、トロージャンは改修したスクールバスに乗り、耳を傾ける人なら誰でも啓蒙しようと6つの州を旅しました。その中には反感を抱く30のアイオワ州農家も含まれていました。
「アイオワ州の農家は、最初は非常に保守的で、反対派だった」トロージャンは言いました。「でもヘンプとは何なのか一度説明したら、会話はその経済中心に変わったよ」
ヘンプは大麻ではありません。ヘンプはあなたを決してハイにはしないのです。
産業用ヘンプと大麻が同じ植物種、カンナビス・サティバLであるというのは本当です。
この2種は見た目にも似ていますが、それぞれ全く異なる目的のために栽培され、改良されてきました。ヘンプ草は繊維、種子、ヘンプシードオイル、CBDオイルのために収穫され、ボディオイルから建築素材まで全てのものに使用されます。
大麻種は、人をハイにさせる化学的化合物であるデルタ-9テトラヒドロカンナビノール(THC)を高濃度含むように交配栽培がされています。州および連邦の定義によって、産業用ヘンプのTHC含有率は0.3%以下です。
※日本でも産業用ヘンプのTHC含有量は0.3%以下とされており、ヨーロッパ各国でも0.2%~0.3%以下のものを指す。
比較のために挙げると、コロラド州の合法大麻株(マリファナ)のほとんどは少なくともTHCを15%は含んでいます。最大では33%も含んでいますが、ヘンプを喫煙してハイになれる人はいません。誰もそれを望みすらしないでしょう。
植民地時代からアメリカ農業の要であった産業用ヘンプは、第二次世界大戦後アメリカではほぼ栽培がストップしました。栽培の廃止にはいくつかの理由がありました。1930年代の映画『リーファー・マッドネス 麻薬中毒者の狂気』による大麻撲滅運動、大麻と競合する企業の影響、合成繊維の台頭などです。同時期に日本でもGHQの指令により、大麻取締法が制定されたため、同じ時期に栽培がストップされています。
それから1971年に連邦政府は、規制薬物法のもと大麻(マリファナ)とともにヘンプをスケジュールI薬物に指定しました。アメリカでのヘンプ栽培は認可が無ければ違法とされ、ごく最近まで運が良くなければ許可を得るのも難しかったのです。
しかし、2014年の農業法案がそれを変えた
法案は、それを認可する州における産業用ヘンプ農業および研究に関する認可制度を設立しました。法案の目的は、ヘンプがアメリカの農家およびビジネスにとって有益となりうるかどうか決定することでした(有益となります)。
今日コロラド州はヘンプ業界の復活のど真ん中にいます。2016年にコロラド州農家は、他のどの州よりも多くヘンプを収穫しました。ラヴランド市にあるツリー・フリー・ヘンプ社は、州で栽培されたヘンプから独自の紙製品を製造しています。研究は、この丈夫な作物が活用できる方法をさらに発見し続けています。
「コロラド州はヘンプ業界を牽引しています」全米ヘンプ協会の副会長および州議会のヘンプ・ロビイストであるサマンサ・ウォルシュは言います。「私たちは、他のほとんどの州を合わせたよりも栽培面積がずっと大きいのです」
ツリー・フリー・ヘンプ紙会社のオーナーであるモリス・ビーグルは、3月31と4月1日にラヴランド市で開催される、成長中の恒例イベントNoCoヘンプ・エキスポをプロデュースしています。ビーグルは、特に2016年の選挙以降、ヘンプ業界の可能性に夢中です。「コロラド州は大麻世界の中心地であり、私たちは国内のヘンプ業界を先導しています」
音楽業界のベテランであったビーグルは、強力なヘンプ支持者です。そして、その好機を見出しています。1世紀近くにわたる不運のため、不正確な情報のせいで他国が産業用ヘンプ市場を独占するのを許してしまいました。
新しい政権は、アメリカに対する商業の復活を推し進めています。国内で使用されるヘンプのほとんどは、主に中国から輸入されています。商業の復活を起こすため、自国でヘンプ農業を復活させる以上に良い策はあるでしょうか?
「雇用創出および地域経済の再建のために再びアメリカ農家にヘンプを栽培させよう」という申し立てが、トランプ大統領の就任から数日後、ウェブサイトwhitehouse.govで署名を集め始めました。ウェブサイトには、2016年にアメリカで販売された輸入ヘンプ製品は6億ドルを超えると述べられています。
「トランプ大統領は私たちに『人々に主権を戻す』という贈り物をくれました」とビーグルは説明します。農地には欺瞞がありました。それにもかかわらず、農家は作物にTHC値が0.3%以上ないか検査する責任があります。プログラムがスタートして3年経った2016年、人を高揚させる量よりはるかに低い値にもかかわらず、多くの作物が“不当”とされ、農家はその作物を失ったのです。
現在の種子に関するジレンマは業界の成長痛の一つだと考えています。異種交配によって生産された栽培品種または植物種が、コロラド州の標高・緯度・気候に特異的に作られれば、“不当”な作物はなくなるでしょう。この点に関して、州は既に農家に対して特定の種子を認証しており、より良い種子品種のためにさらに検査を続けています。
コロラド大学ボルダー校の大麻ゲノム研究所は、このプロセスの加速化を助けます。自社であるセンテンニアル・シーズ社を通じて高品質のヘンプ種子を収集・開発しているベン・ホームズが、このプロジェクトのために種子を提供しました。植物のゲノムが解読され、分配されれば、栽培者は他の農作物と同様に特定の特質および特徴を求めて精査することができるようになる、とホームズは言います。「これこそが、種子研究や害虫処理を含めて全てのことを変えますよ」
ヘンプは干ばつに耐性を持つ作物ですが、コロラド州が今後も大麻を栽培する州として全国一であり続けると誰もが考えているわけではありません。「農作物の話をするとき、私たちは工業ヘンプに関して話しているわけですが、良い土壌、十分な土地、そして水分が必要です。コロラド州はそのどれもが十分ではありません」全米ヘンプ協会の創設者で元会長、現在は顧問コンサルタントであるゼフ・パイスは言います。「これまでタバコやその他大きい作物を栽培していたケンタッキー州のような場所が、今後より多くヘンプを栽培するようになるでしょう」
しかし、研究の観点から見て、今日工業ヘンプが使用される数多くの製品へ、工業ヘンプを開発する新しい手段を発見することにおいてはコロラド州が先導している、と私が話した人は誰もが言います。「我々はここで多くの革新を行っているのでしょう。製品開発です。非常に優れた研究所がありますし、合法化されれば、問題なく他州に配送できるようになります」とパイス。パイスは、環境により負担が大きい化学物質の使用を低下させるために、水圧破砕作業にヘンプ製品を使用する可能性を、石油およびガス会社とともに調査しています。
前進するということは、不確かな、一歩ずつ進む過程です。2016年12月、DEA(麻薬取締局)が連邦公報において行った改訂は、大麻抽出物および濃縮物に関して新たなカテゴリーを設置しました。連邦捜査局は、抽出物に対する調査の追跡を簡単にするものだと主張していますが、業界を弾圧する、または少なくとも問題を複雑にしようとする試みだと業界は捉えています。1月に起こされた、特にヘンプから作られたCBD製品がスケジュールI薬物と見なされるのかに関する訴訟は、回答を待っています。
連邦/州の苦境のほか、ヘンプ・ビジネスは医療/娯楽用大麻に関して数多くの同じ問題に直面しています。銀行取引へのアクセス不足、経費に対する税金控除の欠如などです。しかし元はといえば、最大の問題はリーファー・マッドネスの数十年を克服することです。「私たちのテーブルの周りに座っている人から政府の議員まで多くの人が、ヘンプと大麻は違うということを単に知らないのです」とパイスは言います。「一部の人はヘンプにまつわる法案を可決すれば、完全な合法化にじわじわと近づくのだ、と感じています。教育が重要です。15分から20分の間ヘンプと大麻の違いについてざっと調べることができれば、この2つが異なる性質を持つことが分かるでしょう」
