目次
医療大麻業界の新たな最先端を探って
活力にあふれた6月のある早朝に私は、あらゆる小児疾病に応じる全国1位の診療所ネットワークである、テキサス州フォート・ウォース市のクック小児医療センターへ歩いて行きました。開院したばかりで、一番乗りの患者が私の横をゆっくり移動していました。
私はセンターの小児科てんかんプログラムの責任者であるエンジェル・ヘルナンデス医師に会いに行ったのです。壁掛け記号の経路が私を小児神経科へと導いてくれました。
そこはアニメを流しっぱなしにした薄型テレビが置いてある明るくて広々とした空間でした。装飾用のたこが廊下に吊るされ、虹色のカーテンが窓に垂れ下がっています。待合室にいた子供たちの何人かは意識がはっきりとしていましたが、その他はぼんやりしていました。
一部の子供は運動障害のある子供のために設計された特製ベビーカーに固定されており、また一部の子供には剃りあげられた頭に治りかけの傷跡がありました。ヘルナンデス医師が私を迎えに来てくれたとき、私は長い時間が経ったように思われるのに先生が私を覚えていたことに驚きました。
ヘルナンデス医師は2004年に私をてんかんと診断し、何年かにわたって治療してくれたのです。
てんかんを持つほとんどの人にとって、診断は適切な薬を探し出す困難な試行錯誤の試みをスタートさせます。このプロセスは複雑です。発作が交互に収まっては激発し、疲労感、吐き気、肝臓障害などの副作用が予告なしに起こるのです。
これは部分的には、“てんかん”が実に数多くの独特な発作性疾患を含む幅広いカテゴリーであるという事実に起因します。米国食品医薬品局に認可された約30種の薬がこれらの疾患を治療するために現在使用されており、発作が起こり始めた人は組み合わせや投与量をあれこれ試すことになります。私は、吐き気、めまい、眠気、重い頭痛などの副作用に数年間悩まされました。副作用を軽減するのはまた別の処方薬でした。病気の子供の世話をするために眠れない夜を耐え続ける親は、救済を求めて必死になります。
過去数年間は、次のような治療法が提案されてきました。特別な食事療法、瞑想、バイオフィードバック、移植手術・・・。インターネット上で見つかるあまり一般的でない治療法のなかに、近年注目を集め始めた新しい製品がありました。
奇跡のてんかん薬:CBDオイル
大麻草に天然由来する主な化学的化合物、カンナビジオールに由来して名付けられたCBDオイル(単に“ヘンプオイル”と呼ばれることもある)です。ネットの掲示板や新しい記事では、どの薬も効かなかった子供の発作を止めることができたと言う親の証言とともに、CBDはてんかん治療における新たな最先端として歓迎されていました。
過去2年間に17の州で、親が検察当局による起訴を恐れることなくCBDを入手することができるように、CBDを合法化する法案が可決されてきました。ヘルナンデス医師のような専門医ですら恐れる、何世紀にもわたり人生を破壊し、家族を苦しめてきた発作性疾患の一種である難治性小児期てんかんにとって、CBDは奇跡の治療薬になる可能性がありました。
しかし、ヘルナンデス医師はCBDの流行に慎重でした。ヘルナンデス医師は、 たとえ切迫した状況であっても、悪気のない両親たちに店頭販売のCBDオイル治療の世界へ旅立つことについて、よく考えるように助言しています。
「多くの企業が使っている大きな落とし穴があるのです」と医師は言います。「何を手に入れているのか分かりません。品質問題は深刻です」
確かに、CBDオイル製品は規制や安全性プロトコルを大きく欠いたまま市場から成長してきました。CBD業界の状況は、開拓地の住民を驚かせるような、ほろ馬車で行商されていたエリクサーや妙薬の時代を思い出させます。
CBDオイルがバッチごとに一貫性を持って調剤されたことを保証する業界全体の基準が無いのです。農薬、重金属、溶媒残留物、その他危険な混入物質に関して規制当局によって検査されている製品はありません。
企業が自社のCBD製品を検査するために契約している研究所もまた、標準化も、矛盾ない管理もされていません。CBDをどれだけ患者が摂取すればよいのか勧める医療研究も、CBDがどのように他のてんかん治療薬と相互作用するか述べた詳細で、信頼できる証拠書類も存在しないのです。
CBDの摂取は、牛乳を飲み、それをカルシウムだと言うことと似ています。もちろんいくらかはあるが、その他多くの構成要素のなかに分散し、非常に低濃度で存在しているのだ、とヘルナンデス医師は言います。
そして、その他構成要素が何であるかは誰も知りません。「CBDは、臨床試験などの我々が通常使う有効性管理、 安全管理を経ていないということを知るべきです」とヘルナンデス医師。「この薬物がどれだけ安全かという決定はまだ下されてません」
規制や研究が欠如するなか、CBD業界は必死な人々の希望から利益を得ながら、強引な販売マーケティングや半端な真実を扱うグレーな靄のなかで売買しています。
ヘンプオイルは他の大麻製品ほど人気になったことはありませんでした。THCをまったくかほとんど含まない、CBDが豊富な大麻草は、娯楽目的の使用者が大麻に求める心地よい興奮状態をもたらしません。
しかし、1970年代に科学者たちは、カンナビジオールが発作の軽減に効果的であることを発見しました。脳内のエンドカンナビノイドシステムが、抗けいれん作用を生成するCBDに反応する受容体を含んでいるのです。
植物由来であり、脳内の化学物質に自生することから、CBDは現在受けられる最も自然な発作治療法の一つです。それでも2013年にCNN局の特別ドキュメンタリー『Weed(大麻)』が放送されるまで、CBDに興味を持っていた人は多くはありませんでした。CNN医療担当記者の主任サンジェイ・グプタがホストした『Weed(大麻)』は、発作との闘いにおけるCBDの有効性を強調していました。それ以降、ヘンプオイル製品に対する需要が爆発したのです。
一部の疾患の治療におけるCBDの潜在的な有益性は、全大麻草の合法化を支援するさらに別の議論です。
大麻の合法化がもたらす意味
規制薬物法で違法とされるスケジュールI薬物のリストから大麻を除外することは、科学者がその完全な医療的潜在能力を研究すること、またアメリカ国内の製薬会社が大麻を元にした薬剤を開発し、FDAの認可を申請することを可能にします。安全性と品質を保証するために、政府規制下の研究所がCBDオイルのような製品を検査できるようになります。医師たちは、医療免許の剥奪や収監を恐れることなく、潜在的な副作用や薬物相互作用をよく知った上で、大麻を元にした薬剤を処方できるようになるでしょう。
過去数年にわたり、合法化に対する支持が着実に増えてきました。現在、医療大麻は23の州およびコロンビア特別区において合法です。米司法省ですらその姿勢を和らげはじめました。
昨年の秋、社交的なエリック・ホルダー司法長官が、大麻をスケジュールI薬物から除外することを支持すると示唆しました。「大麻がヘロインと同じくらい深刻な薬物であるかどうか、自問すべき疑問だと考えています」ホルダー長官は言いました。
この夏、アメリカ麻薬取締局の長官代理であるチャック・ローゼンバーグは、大麻が他のスケジュールI薬物ほど危険ではないと認め、取締局員が大麻の監視を優先しないことを発表しました。それでも、連邦法によって大麻が違法とされている限り、でたらめな研究、製造、流通はそのままとなり、アメリカ人は大麻の薬理作用を最大限利用することができないのです。
現在、多数の企業が多様な手法でCBDを生産しています。CBDはペン型ヴェポライザーで吸引したり、外用軟膏で塗布したり、食用を摂取したり、オイルベースのチンキ剤を飲んだりすることができます。
投与や摂取が簡単であることから、てんかんを患う子供に対する主要なCBD摂取方法はオイルで、オンライン販売で常に入手可能です。Healthy Hemp Oil、Dose of Nature、Natural Organic Solutionsなどの名前で主張する数多の企業が存在し、それぞれCBD製品をささいな価格から目がくらむような高額まで幅広い値段帯で販売しています。
見つけるのは難しくありません。ペイパルのアカウントと100ドルさえあれば、CBDオイルの小瓶を家まで届けてもらえるでしょう。
乱立するCBD企業の課題
医療大麻業界で最も大手なのは、カリフォルニア州サンディエゴの真北に位置するパウウェイ市で2009年に設立されたメディカル・マリファナ社です。メディカル・マリファナ社は、国中の医療および娯楽を目的とした大麻の段階的合法化を利用して素早く動いてきたため、いわゆるグリーン・ラッシュにおいて先導的役割を果たしてきました。
企業の報道官アンドリュー・ハードは、メディカル・マリファナ社が「CBD業界を作り、最初にCBD製品を販売した」と豪語しました。メディカル・マリファナ社はさまざまな子会社を通じて、CBDを注入したシャンプーサイバダームからチューインガム、キャンチューまで、大麻市場で最も認知されている製品の一部を販売しています。2014年、企業は1450万ドルの収益を上げました。
メディカル・マリファナ社が提供する数多の製品のなかには、同じくパウウェイ市にある子会社ヘンプメッズから販売されているリアル・サイエンティフィック・ヘンプCBDオイルがあります。
ヘンプメッズのウェブサイトにはヘンプが“どのように北欧の微気候下で農薬、除草剤、化学肥料を使用せずに栽培されているか”記載されています。ヘンプメッズ社は、“検査を継続し、製品がすべての規定を満たし、品質基準を上回るためのプロセスを改善する”ことを約束しています。
2012年、ブランドン・クレンズラーの娘ミカイラが7歳で小児白血病の一種であると診断されて時、ブランドンは症状を緩和する可能性のある医療大麻製品を調べ、その結果についてブログに書き始めました。翌年ブランドンの元にリアル・サイエンティフィック・ヘンプオイルのサンプルが届き、ブランドンはミカイラに投与しました。しかしオイルはミカイラの具合を悪化させました。
オレゴン州ポートランド市に住んでいたブランドンは、ミカイラの胃けいれんを心配し、オレゴン州アルバニー市にあるゴーイング・グリーン研究所にオイルのサンプルを送りました。
大麻業界を対象にしている大半の研究所と同様に、ゴーイング・グリーン研究所はTHCの力価試験を主に行っています。ブランドンによると、研究所がサンプルを検査した際、リアル・サイエンティフィック・ヘンプCBDオイルはヘンプメッズ社が主張する以上のTHCを含有していたことが分かりました。
およそ1%の代わりに3.8%も含まれていたのです。ブランドンは、その結果、および病気の子供を持つ他の親に対する関連から「不快感を感じた」と言います。医療大麻はオレゴン州では合法ですが、大麻が合法化されていない他の州では微量以上のTHCを持つ製品を購入すれば、法的危険に直面するだろうと、ブランドンは指摘しました。「ヘンプメッズ社は製品を不正確に伝えていると感じます」
ゴーイング・グリーン研究所のオーナーの一人であるイライアス・アンダーソンは、ブランドンがブログに検査結果を発表した後、ヘンプメッズ社の代表が連絡してきたと話します。
「彼らは『どうしたらいいんだ?』といった感じでした」とアンダーソンは回想しました。「そして私は『何にもできません。我々には基準があり、私は自社の検査結果に責任を持ちます』と答えました」それでもなお企業の代表はしつこく、ブランドンのブログから検査結果を削除するようアンダーソンに忠告しました。
ニューパブリック誌に対するEメールのなかでメディカル・マリファナ社の広報担当者ハードは、ゴーイング・グリーン研究所が検査したヘンプオイルのサンプルは、ブランドンが入手した後に競合社によって“改ざんされた”のだと強く主張しています。
「それどころかヘンプメッズ社は、自分たちが分析過程の管理を監視できないような製品の検査結果を研究所に発表しないように伝えました」とハード。「もし発表するなら、それは研究所にとって非常に悪いことだと証明されるでしょう」ハードはまた、ブランドンとアンダーソンをメディカル・マリファナ社を“憎む人”だと見なし、企業および製品に関する批判のほとんどは商業的競合社からくるものであると示唆しました。
しかし、業界を広く見渡してみると、懸念する理由はあります。2月にFDAは、市場調査の一環として6社のCBDオイル会社による18のCBD製品を分析しました。結果は憂慮すべきものでした。
これらのCBD製品の多くは全体的にCBDが欠如していました。18のうち6製品はまったくカンナビノイドを含有していませんでした。他の11製品も1%以下しかCBDが含まれていませんでした。最もCBD量が多かった製品は2.6%で、犬用のカプセルだったのです。CBDを合法化した州では、CBDが少なくとも5%以上、通常は10~15%含有することが規定で求められています。
CBDの濃度が低いことだけが懸念ではありません。大麻草は頑強で、その太い茎にはバイオレメディエーションという特別な性質が含まれています。汚染された土壌で育つ場合、ヘンプは重金属その他汚染物質を吸収し、効率的に土地を浄化します。
全ての植物は土壌の化学物質を一部吸収しますが、その構造、大きさ、遺伝子構造によりヘンプは化学物質吸収が特に得意なのです。大麻があまりに効果的なので、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の後、大量の放射線を浴びた土壌を浄化するのを助けるために産業用ヘンプの苗が植えられたほどです。ヘンプの茎が繊維や紙、その他消費性でない産業目的で使用される場合、ヘンプに吸収された汚染物質は人体に危害を与えません。とはいえ産業用ヘンプを摂取するとなると話は別です。
2001年イギリスのヘンプ処理工場に実施された研究では、残存する産業用ヘンプの粉末には、吸引した場合“さまざまな健康問題を引き起こす可能性を持つ”微生物およびその他汚染物質が含まれることが分かりました。
生のヘンプ・ペーストから危険な汚染物質を漉す方法はあります。そして大半の企業は、自社の品質および安全手順に責任を持っています。「我々は、消費者が購入した高品質のヘンプ茎オイルに期待する量の天然成分を得られることを保証するために、全製品を継続的に検査しています」
ヘンプメッズ社は次のようにウェブサイトに明記しています。「さらに我が社の全CBD製品は、オイルの中に溶剤、重金属その他危害の可能性を持つ物質が含まれないことを保証するために、安全検査を受けています。これらの段階を経ることで、我々は常に我が社の製品に自信を持つことができます。あなたもそうなるでしょう」
メディカル・マリファナ社CEOのスチュアート・ティトゥスは、ヘンプ草には汚染物質を自ら排除する自然な能力を持っていると主張します。「ヘンプの自然な能力が、これらの長く、大規模な分子の一部を基底成分に分解し、時間をかけて毒性の低い状態にするのです」とティトゥスは言いました。
しかし、植物系医薬品およびエンドカンナビノイドシステムに関する研究の最先端にあるバイオテクノロジー企業ファイテクス社の医長イーサン・ルッソ博士は、ティトゥスの主張に反論しました。
「生体蓄積器は土壌の重金属を吸収します。しかしそれを分解するのは錬金術と言えるでしょう」製薬業界の政府規制は、根拠のない科学的主張から消費者を守るために作られています。
結局のところ、ヘンプメッズ社のような企業は、単に自分たちを信じてほしいと消費者に訴えているのです。CBDオイルはアメリカの取締機関によって組織的検査を受けたことはありません。
FDAは全国の製薬研究室を管理しています。しかしヘンプメッズ社その他企業が使用するような大麻研究所は違います。それは大麻が連邦政府によって合法薬物だと認識されていないからです。
これらすべてのため、最も献身的な医療供給者にとってさえCBDを安全に管理することが非常に難しいのです。コロラド大学小児科および神経学の准教授で、コロラド小児病院におけるドラベ症候群プログラムの主任でもあるケリー・ナップ博士は、てんかんを患う子供を持つ家族がCBDオイルを検査してほしいと病院にオイルを持ってこようとしてきたと話します。
「誰が実際ヘンプを栽培しているか分からないのが不安なのです」ナップは言います。「CBD製品が規制されていないことも分かっています」しかしCBDはスケジュールI規制薬物であるため、コロラド大学のようなハイテクな管理された研究所では、起訴されるリスクを犯さないために、CBDの受け入れ、保管または検査ができません。「CBD製品を受け入れられる研究所なんてありませんよ」とナップ。
このため、検査はすべて、大麻業界に応じる規制されていない検査センターに任されることになります。
大麻が連邦レベルで違法であり続けているという事実にもかかわらず、ヘンプメッズ社のような企業は、自社のCBDオイル製品が全50州で合法だと主張しています。
メディカル・マリファナ社の弁護士によって書かれ、ニューパブリック誌に提出された法律専門家の意見によると、「天然由来のCBDおよび微量のTHCを含むヘンプメッズ社のCBDオイルは、大麻の定義から除外され、規制薬物ではないので、規制薬物法に準拠し、連邦レベルで合法です」この意見は主に、大麻草の成熟した茎から作られるヘンプフード製品の輸入を認めた2004年の判決を基にしています。
しかし、DEAは、CBDは規制薬物法の元で違法であると考えていることを明白に述べています。「大麻草から派生するCBDは、大麻の天然由来の構成成分であるため、規制薬物法( CSA)スケジュールIの元に規制されています」DEAの副次長補ジョセフ・ラナージシは6月に議会の委員会でこう述べました。
「現在CBDの潜在的な医療使用に関する研究が進行していますが、CBDは現在アメリカにおいて医療使用を認められていません」さらにDEA報道官エドゥアルド・チャベスはニューパブリック誌に対し、メディカル・マリファナ社のCBDに関する社内の意見は価値がないと話しています。「結論を言えば、オイルは大麻草の一部であり、大麻草は現在連邦法の元スケジュールIの規制薬物なのです」とチャベス。
CBD販売企業を注意深く精査している政府機関はDEAだけではありません。FDAをかわすために、ヘンプオイル企業は自社の製品は薬ではなく“健康補助食品”だと強く主張しています。
企業名に“薬”を連想させる単語があるにもかかわらず、ヘンプメッズ社はその点をぬかりなくウェブサイトに記載しています。「創設者の一部は医療専門家ですが、我々は自社製品の利点に関して医学的主張をすることはできません」他の企業はそのマーケティングにおいてそこまで曖昧にしていません。インターネットは、発作から関節炎、肌トラブル、その他疾患まですべてを治療すると主張するCBD製品であふれています。
例えば、2月にFDAが調査した6つのヘンプCBDオイル企業は、CBD製品を“養生、緩和、治療または病気の予防”において使用できると明白に宣伝していました。FDAは、製品のラベルを変えないと法的措置に直面する可能性があるとする警告状を企業に送りました。
それから5月にFDAは、カンナビジオールを含む製品を健康補助食品の定義から完全に除外することを発表しました。メディカル・マリファナ社の広報担当者ハードは、企業は“CBDに関する議論を前面に出すものとしてこれらの展開を前向きに”とらえていると言います。
ハードはFDAの5月の発表を“意見の一つ”と特徴付け、「メディカル・マリファナ社およびヘンプメッズ社は企業団体とともに、この件に関してFDAとどのように相互理解に達することができるか決めようと協議している」と付け加えました。
それでもなおCBD企業に対する警告状はFDAの健康詐欺リストを散らかしましたが、ネット上の業者を厳しく取り締まるのはモグラ叩きのようで、CBD製品は今でも広く入手可能となっています。
無論、病気の子供を助けるために何か解決法を見つけようと必死な親は、CBDが薬物または健康補助食品に指定されていようが、製品を医師からもらうかオンラインショップで買うか、気にする余裕はありません。ヘンプメッズ社のような企業を人々が信じたい理由の一つは、一部の人に対してはCBDオイルが効くらしいからです。
遺伝子疾患CDKL5の発作を緩和したCBDオイル
6月のはじめ、私はダラス市から25分の郊外にあるテキサス州キャロルトン市に住む3人の子供を持つ母親、ペニー・ペニントン・ハワードに会いました。玄関口の窓ガラスには、歩道からはあまり見分けることができない2つの張り紙がありました。
1つには酸素治療をしているため訪問者に喫煙しないよう呼びかけるもので、2つ目は障害児がいる家であることを知らせる黄色いダイヤモンド型の張り紙です。ペニーは太陽が照りつける外から私を中に招き入れ、リビングを通って子供たちがランチを食べているキッチンへと案内してくれました。
8ヶ月のセスは子供椅子のトレイからシリアルをむしり取っていて、7歳のリリーはカウンターから食卓までを行ったり来たりしていました。足の指の爪がピンク色をした、5歳になる金髪のハーパーは、体を固定するためのストラップがついたプラスチック製の成形椅子、“トマト椅子”にもたれかかっていました。
ハーパーは乳児の時、世界に約600人しか患者がいない、2004年に発見されたばかりの稀な遺伝子疾患CDKL5と診断されました。病名は疾患が影響するDNA、神経発達における重要なタンパク質の生成に関与する遺伝子の微粒子と同じ名前です。
CDKL5の症状には、知的障害、発達遅延、呼吸および視覚障害、発話能力の制限または欠如、乏しい筋緊張、そしておそらく最もひどい症状に頻繁な発作が含まれます。
生まれたばかりのハーパーを夫のダスティンと家に連れ帰った後、何かがおかしいとペニーに気付かせたのは発作でした。数ヶ月後、はっきりとした診断のないまま一連のてんかん薬を試したペニーとダスティンは、幼児期発作の専門家に会うためにハーパーを連れてボストンに飛びました。
そこで彼らは初めてCDKL5を知りました。「人生が大きく変わった瞬間でした」とペニーは言います。「この診断を受けてからです。私たちにはどうすることもできない異常を家族に抱えることになりました」
ハーパーの症状を大きく緩和する薬はないように見えました。
しかし2013年、ボストンへの旅から3年後、ペニーとダスティンはCNN局の医療大麻ドキュメンタリーの放送を見て、医療大麻が違法とされるテキサス州でどうしたら入手できるか調べ始めました。ネットで検索するうちに、ヘンプメッズ社とそのリアル・サイエンティフィック・ヘンプオイルにたどり着きました。企業がCBDオイルの小瓶を送ってくれたので、ペニーはその年の9月にハーパーにCBDオイルを投与しました。
「オイルを試す前の週は64回の発作がありました」それは目に見える発作だけで、見えない神経学的事象は数百に達する可能性があるとペニーは言いました。「CBDオイルを投与して次の週の発作回数は28回でした。ヘンプCBDオイル2週目は0回だったんです」ペニーは口を閉じ、まるで今でもその奇跡を半分信じられないというように繰り返しました。「0回だったんです」
しかし、すべてが良かったのではありませんでした。ハーパーは疾患に関連する健康問題を持ち続けました。そしてCBDオイルの使用を開始してから7ヶ月後、以前ほど頻繁ではありませんが、発作が復活しました。ペニーはハーパーの毎日の食事および薬の処方計画を記録するために7つのiPhoneアプリを使っており、またハーパーの発作すべてを分厚くまとめられた黒いノートブックに記録しています。
しかしペニーとダスティンがハーパーの健康を注意深く観察し、それに従って投薬を調整し続ける一方で、医師たちはCBDオイルのことになるとアドバイスできることが限られています。「CBDに関する研究がないので、先生はこれが良いとも悪いとも言えません。ただ『投与をやめないように』と言うだけです」とペニー。
FDA認可の薬剤とCBDオイルの相互作用は重要な懸念事項だとヘルナンデスは言います。「これまでに分かったことは、CBDが実際、一部のてんかん薬に関してある程度影響を与えるということです」
CBDオイル摂取に関連する下痢および嘔吐は、患者体内の他の薬剤の濃度を低下させる可能性があり、一方で人体がCBDを吸収する方法は一部の薬剤の濃度を増加させる可能性があります。
てんかんの重症型を患う子供にとって、薬剤濃度の変化は極めて危険となることがあります。「濃度が低下すれば発作のリスクが高まり、緊急外来を受診、またはICU(集中治療室)に滞在することになるかもしれません」ナップは言います。
「その一方で、濃度が高まれば、副作用が劇的な増加する可能性があります」てんかん薬の副作用は、眠気から嘔吐、不整脈まで幅広くあるとナップは話します。「一部の患者にとってはささいな問題かもしれませんが、一部の患者にとっては命にかかわることになり得るのです」
家族がてんかん薬からCBDオイルに変える決断した後で子供たちが重体になった例を見てきた、とナップは話しました。「おそらく標準の抗てんかん剤をやめたことにより発作が深刻化して、緊急外来またはICUに連れて来られた子供は数人いました」とナップ。
神経学者は、十分研究された薬剤間の副作用および相互作用を予測することに長けています。
しかし、CBDに関する信頼できる研究の欠如により、ヘルナンデスやナップのような医師は患者に対してCBDの使用を指導することができません。もし副作用があれば、ハーパーがそれによって苦しむのでペニーに分かります。ペニーはこれまで試行錯誤を通じて、どのように混ぜたり、測ったりするのが最適か理解してきました。結論はシンプルです。「私たち自身が研究なのです」
ここまで、CBDオイルは同時に違法薬物で、合法の治療薬で、“健康補助食品”であるという、境目の領域に存在してきました。
しかし今後何年かの間にこれは変わっていく可能性があります。イギリスに拠点がおく企業GWファーマシューティカルズ社は、有望な検査結果を示したエピディオレックスと呼ばれる“純粋なCBD”を開発してきました。
エピディオレックスは現在FDAによる認可を迅速に得ようとしています。一部の患者にとってエピディオレックスは奇跡の薬となりえます。この夏記者のフレッド・ヴォーゲルスタインはワイヤード・マガジン誌で、息子のてんかんのために効果的な治療法を見つけようとした彼自身の家族の奮闘を記録しました。
その記録にはヘンプオイルの実験も含まれ、FDA認可前のエピディオレックスを入手するために乗り越えた膨大な障害についても書かれていました。エピディオレックスは近い将来薬局の棚に並ぶでしょうが、どのくらい近い将来かはまだ分かりません。しかし、エピディオレックスの登場によって、規制されていないCBD市場が消える可能性は低いです。エピディオレックスはごく少数のてんかん疾患に関してのみ研究されてきました。
エピディオレックスが薬局に導入された際は、2種の破滅型てんかんであるドラベ症候群およびレノックス・ガストー症候群に対してのみ承認されるでしょう。比較的穏やかなヤンツ症候群を持つ私のような人々、またCDKL5のように非常に稀な疾患を患うハーパーのような人々はまだ入手できない可能性があります。
CBDオイル製品に対する需要が増えるにつれ、いくつかの州が行動を起こし始めました。過去2年間にわたり、17の州で“CBDオンリー”法が可決されてきました。この法案は、病気の子供を治療するためにCBDオイルを購入する両親が、連邦政府によって未だにスケジュールI薬物とみなされている薬物を所持することに関して、州検察当局に逮捕・起訴されないことを保証するものです。
これらのCBDオンリー法はまた、対象製品がどういう割合でCBDおよびTHCを含まなければならないか規定するなど、CBDオイルにおけるいくつかの規制を課そうと試みています。
例えば6月1日、私がテキサス州フォート・ウォース市でヘルナンデスと会った日、グレッグ・アボット州知事はオースティン市でコンパッショネート使用法に署名しました。法案はすべてのCBD製品に0.5%以下のTHC、少なくとも10%以上のCBDを含有することを要求しています。
しかしこの法案は、州がどのようにこの要求を実行させるよう計画しているのかについては明記していません。研究所がどのようにCBD製品を検査できるか、どのような基準を使うべきか、どのように規制すべきかに関する説明が法案には欠けているのです。
CBDのみ法を可決した17の州のうち5つの州、ミズーリ、フロリダ、ミシシッピ、ルイジアナ、テキサスでは、オイルおよびその他CBD製品に変えることができる高濃度CBDの大麻株を栽培するための認可栽培センターも設置します。
これにより 規制されていない海外の製造者から入手されるCBDオイルに対する需要は低減されるでしょう。それでもなお障害は残ります。例えばミズーリ州では、連邦法およびFDA非認可製品の安全性に関する懸念に言及し、2人の神経学者が最近、発作に苦しむ8歳の男の子に対するCBDオイルの処方を拒否しました。
連邦レベルでは、政府によるCBDの扱い方を変えることを求めるいくつかの法案が現在アメリカ連邦議会を待っています。その法案の一つには、CBDを“大麻”の分類から除外し、またCBDおよび大麻をDEAのスケジュールI規制薬物リストから除外するコンパッショネート・アクセス法があります。このような方向でCBDを再分類化することは、CBDの研究および栽培をずっと容易にするでしょう。
連邦レベルの変更が無くても、CBD市場をより安全なものにするために州が取れるステップがあります。広範の大麻合法性またはCBDのみ法を持つ州は、研究所の規制および較正を命じ、それによって安全性検査を実施させることができます。
また、公立大学システムを通じたCBDの利点、投与量および薬物相互作用に関する研究に資金を供給することもできるでしょう。CBD製品が入手可能になった際に医師がこれらの薬剤を処方し、管理する準備ができているようにするために、医事当局は全過程においてどのような医療大麻に関する研究が存在するか医師を教育する一層の努力をすることができます。
無論、最も簡単な解決策は連邦政府が大麻を完全に合法化することだ、と支援者は言います。もし大麻、つまりその全草および抽出物が、特定の化合物や解剖学的特徴に関するややこしい特定も無く合法化されたら、アメリカの製薬会社は慎重に栽培し、その薬理作用を研究して、臨床試験または承認のためにFDAのような取締機関に自らの発見を提出することができるようになるでしょう。
発作に苦しむ患者にとって、大麻の合法化は明白な転機となるでしょう。てんかんは人を必死にさせます。発作は苦しみを伴うもので、時に人を消耗させます。そして、歯が折れたり、傷ができたり、時間の損失や恥などの余波もあります。てんかんを患う人々はうつ状態であることが多く、一般人口より2倍以上高い自殺率を持ちます。てんかんはまた、それまで健康だったてんかん患者が前兆または説明も無しに死んでしまう、てんかんの突然死として知られる症候群とも関連しています。
緩和せずに苦しみ続けることは考えられませんが、助けを得ることのには大きな費用がかかります。テキサス大学の公衆衛生学教授チャールズ・ベグリーが実行した調査で、てんかん治療費は年間8500ドル〜11000ドルかかることが分かりました。
リアル・サイエンティフィック・ヘンプCBDオイルは他の薬剤の価格とあまり変わらず、保険による援助もありません。1本の3グラムの小瓶は149ドルで、10グラムのチューブ6本セットは1999ドル(またはセールで1599ドル)します。ヘンプメッズ社は、“1日の分量”を1日に0.5mlを2回と提案しています。このような薬剤が認められた場合のみ、保険は勘定を払うでしょう。
私が訪問した時、ペニーはハーパーにCBDを投与するところを見せてくれました。私たちは、窓から緑の芝や木製のブランコが見えるキッチンに立ちました。
ペニーはハーパーのオイルを慎重に混ぜて測った後、大きなプラスチック製の注射器にそのオイルを注ぎました。「これはネットに載せているのよ」ペニーは、CBDオイルを投与している他の親たちを助けるためにペニーが製作したYouTubeの動画に言及しました。
ペニーは娘の方にかがんで胃瘻菅に注射器の先を取り付け、私は静かに横で立っていました。ハーパーはペニーを見上げ、ペニーはにっこり笑顔を返しました。そしてプランジャーをそっと下ろしました。
